叔父さんシリーズ。
「『ドルイド信仰』1/2」の続き
死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?234
215 :その5:2009/12/27(日) 23:09:32 ID:7jwJJ7JM0
何とか旦那を説き伏せて、暖かいコーヒーを飲みながら3人が落ち着いてきたその時、旦那の携帯が鳴った。
奥さんの声が否が応でも聞こえてきたと言う。ヒステリックな金切り声だ。
明らかに『殺したの?捧げたの?やったの?』と、傍の叔父にも聞こえて来たと言う。
あんなに温厚に見えた奥さんの方が、実はこの件では主導権を握っていたのだと思い、ゾッとしたと言う。
奥さんは東京のマンションから電話をしているらしい。
旦那はある程度は言い返してはいたが、奥さんの凄い剣幕に終始押され気味だったと言う。
たまりかねて叔父が電話を変わり、物凄い口論となった。
一時は殺されそうになり、まだ片方が殺意を剥き出しにしているのだから、
激しい感情のぶつかり合いになるのは至極当然だろう。
叔父の彼女も先ほどの涙とはうって代わり、叔父に負けじと口論に加わったと言う。
「こりゃ将来尻に敷かれるなぁと思ったね。その時は」
叔父は苦笑しながら言った。確かに今は尻に敷かれている様だ。
やがて叔父がたまりかねて、警察、裁判沙汰をちらつかせる様になると、
やっと奥さんも大人しくなり、しぶしぶ旦那の話も聞くようになってきたと言う。
一応、いざこざの一段落はついた。
流石にその日は深夜になっていたので、その別荘で休む事になった。
「一応さ、話はついたけど、まさか眠るわけには行かないよな。あんな事されそうになって」
暖炉の広間で叔父と彼女が身を寄せ合って座り、離れた場所に旦那が申し訳なさそうに座っていた。
「明日、旦那の知り合いの業者に手伝ってもらい、クヌギの木は切り倒す事を約束してもらったからさ、
それを見届けるまではな」
3人ともその日は寝ずに、朝を迎える予定だった。
216 :その6:2009/12/27(日) 23:11:05 ID:7jwJJ7JM0
夜もさらに深まった、午前3時頃だったと言う。
「ザッ ザッ ザッ」と、森の奥から何かが近づいてくる音が聞こえた。野生の動物か、野犬か。
コックリコックリと船を漕いでいた叔父も、その音に目が覚めた。
「明らかに人間に近い足音と気づいた途端、ゾッとしたね」
最初は奥さんが来たと思ったらしいが、あの電話を終えてからこんな短時間でここまで来れるわけがない。
いや、あの電話は実は近くからかけていたとしたら…もしくは他に仲間がいたとしたら…?
叔父は寒さなどお構い無しに全ての窓や戸を開け、アウトドア用のナイフを手に、臨戦態勢で息を殺していた。
「ザッ ザッ ザッ」という音は一向に止む事はなく、明らかにこの小屋に向かっている。
「それから10分後くらいかな。
もうな、普通にこの小屋を訪ねて来るように、玄関の戸に立ったんだよ。足音の主が」
「○○?(妻の名前)」と旦那が叫んだ。が、すぐ驚愕から恐怖の悲鳴に変わった。
「奥さんの様で、奥さんじゃないんだよ。顔はほとんど同じなんだな。だが、生気が無いと言うか。
で、この真冬に素ッ裸だぜ?でな、最初は旦那は、妻の様なモノの裸に驚いて声を上げたと思ったんだよ。
違うんだよな。肌の質感も色も、木そのものなんだよ。
で、もっと怖かったのは、左右の手足が逆についてるんだよ。
分かるか?それが玄関に上がって来ようとしてな、右足と左足が逆なもんだから、動きがおかしいんだよ。
上がり口に何度もつっかえたりして。それが何よりおそろしくてなぁ」
確かに想像するだけでもイヤな造形だ。
218 :その7:2009/12/27(日) 23:12:45 ID:7jwJJ7JM0
「彼女は絶叫してたな。旦那も、明らかに妻じゃないって確信したと思う。
でもな、一応人間の形はしてるんだからさ。刺せないぜぇ?なかなかそんなモノを。
やっぱ、人間の心ってリミッターあるからさ。もし人間だったらどうしよう、とか思うよ」
それは確かに分かるような気がする。
「でな、その妻の様なモノがとうとう小屋の中に入ってきて、何か言うんだよ。
それも、何言ってるか分からなくてな。カブトムシの羽音みたいな音を喉から出して。
で、左右逆の足でヨタヨタしながら、俺の方に向かって来るわけだ。
しかし、俺も真面目なもんだよなぁ。
それでも最後に一応、『○○さんですかっ!?』って聞いたよ。さっきのリミッターの話な。
それでも、ソイツは虫の羽音の様な耳障りな音を喉から発して、
これまた左右逆の両腕を伸ばし、俺の首を絞めてきたもんだから、
思いっきりソイツの腹を前蹴りで蹴ったよ。
すると腹がボロボロ崩れて、樹液みたいな液を撒き散らし、腹に空洞が出来てやんの。
それで決心出来たんだよな。あぁ、これは人間じゃないから、ヤッちゃって良いんだってな」
と、豪快に笑いながら叔父は言った。
こういう時の度胸を決めた叔父は本当に頼もしく見える。
不気味な声を発しながら、ソイツは起き上がって来たらしい。
叔父はナイフをソイツの脳天に1発、もう1度蹴り倒したら、空洞の腹を貫通し、胴体が千切れたらしい。
彼女と旦那の絶叫が一段と激しくなったと言う。
「で、腹の中から異臭のする泥やら、ムカデやら色んな虫がワラワラ出てきてさ。もう部屋中パニックだったな。
床に倒れたソイツの人型も、段々ボロボロと崩壊していって、床には泥と虫だけが残ったね。
気持ち悪くて、ほとんど暖炉に放り込んだな。
突立てたナイフが、いつの間にか消えてたのが気になったけどな」
219 :その8:2009/12/27(日) 23:13:36 ID:7jwJJ7JM0
その凄惨な格闘が終わり、全ての残骸を暖炉に投げ込んだ後、すぐさま旦那に妻へと電話をさせたらしい。
妻はすぐに出た。
「妻は死んでいた!とか、やはりそういうのは心配するだろ。形が形だけに。
元気だったけどな。まぁキョトンとしてたな。
流石に今起きた事は言わなかったけどな。後で旦那が話したかどうかは知らないが…
でも流石に、全て終わった後に恐怖が襲って来たね。手足とか震えて来てな。彼女はずっと泣いてたな。
で、1番怖かったのは、彼女が暫くして変な事言い始めたんだよな。
何でアレに『○○さんですか?』と問いかけたのかと。
変な事聞くなぁと思ったね。顔はどう見てもあの奥さんなんだから」
「で、どういう事だったのかな?」
俺が聞くと、叔父は気味が悪そうにこう言った。
「『よく自分の形をしたモノの頭に、ナイフなんて突き立てられたね』って、彼女はこう言ったんだよ。
つまり、彼女にはあの化け物が、俺の姿に見えてたんだよな」
叔父が想像する所は、次の様な事らしい。
古代ドルイドの秘儀で、オークの木に邪悪な生命が宿った。
それにあの妻の怨念も乗り移り、生贄が止まった事に見兼ねて、自ら実体化して現れたと。
そして、見る対象者によっては、あの化け物が様々な姿形に見えるのではないかと。
223 :完:2009/12/27(日) 23:27:17 ID:7jwJJ7JM0
「翌日、日が真上に昇るまで待って、あの木を見に行ったよ。
木の表面が2cm程陥没してて、1m60cmくらいの人型になってたな。
そして、頭部らしき箇所に、俺のナイフが突き立ってたな」
やがて夕方になり、旦那の知り合いの業者がやってきて、クヌギを木を切り始めたと言う。
「最初にチェーンソーが入る時と、木が倒れる時、完全に聴こえたんだよ。女の絶叫がね。
俺と彼女と旦那だけ聴こえた様子だったな。
で、切り株と根っこまで根こそぎトラックに積んでたんだが、小動物の骨が出るわ出るわ。
業者も帰りたがってたな。さっきの人型と良い、そりゃ気味悪いよな。まぁ、人骨が出なかっただけマシかぁ?」
後日、隣の夫婦がそれなりの品物を持って謝罪に訪れたと言う。
「受け取ってすぐ捨てたけどなぁ。やっぱり、色々勘ぐってしまうよな」
そして、すぐ夫婦は引っ越し、叔父たちもその後すぐにマンションを引き払ったらしい。
暫くして、叔父は彼女とは一時別れてしまったそうだ。
「そんな事もあったねぇ」
紅茶を飲みながら、叔父が懐かしそうに言った。
「そうだな…あぁ、そう言えば…」
叔父が庭の木を見つめて呟いた。
「ウチにもオーク、ナラのカシワの木があったな。縁起物だから、新築の時植えたんだがな。
まぁ、アレだな。モノは使い様と言うか…人間の心次第と言う事かな。
それがプラスかマイナスかで、有り様が変わってくるからな」
そして、叔父の話は終わった。
今度来るときは、カシワの葉で包んだ柏餅をご馳走してもらい事を約束し、その日は叔父夫婦の家を後にした。
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