叔父さんシリーズ。
「『邪視』1/2」の続き
死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?186
701 :その6:2008/01/17(木) 21:44:14 ID:U3a23e/90
「兄ちゃん、起きろ」
俺が10歳の時に事故で亡くなった、1歳下の弟の声が聞こえる。
「兄ちゃん、起きろ。学校遅刻するぞ」
うるさい。あと3分寝かせろ。
「兄ちゃん、起きないと 死 ん じ ゃ う ぞ ! !」
ハッ、とした。寝てた??あり得ない。あの恐怖と緊張感の中で。眠らされた??
横の叔父を見る。寝ている。急いで起こす。叔父が飛び起きる。
腕時計を見る。5時半。辺りはほとんど闇になりかけている。冷汗が流れる。
「00、聴こえるか?」
「え?」
「声…歌?」
神経を集中させて耳をすますと、右前方数m?の茂みから声が聞こえる。
だんだんこっちに近づいて来る。民謡の様な歌い回し。何言ってるかは分からないが、不気味で高い声。
恐怖感で頭がどうにかなりそうだった。声を聞いただけで、世の中の何もかもが嫌になってくる。
「いいか!足元だけを照らせ!!」
叔父が叫び、俺はヤツが出てこようとする茂みの下方を懐中電灯で照らした。
足が見えた。毛一つ無く、異様に白い。体全体をくねらせながら近づいてくる。
その歌のなんと不気味な事!!一瞬思考が途切れた。
702 :その7:2008/01/17(木) 21:45:39 ID:U3a23e/90
「あぁぁっ!!」
「ひっ!!」
ヤツが腰を落とし四つんばいになり、足を照らす懐中電灯の明かりの位置に顔を持ってきた。
直視してしまった。
昼間と同じ感情が襲ってきた。死にたい死にたい死にたい!こんな顔を見るくらいなら、死んだ方がマシ!!
叔父もペットボトルをひっくり返し、号泣している。落ちたライトがヤツの体を照らす。
意味の分からないおぞましい歌を歌いながら、四つんばいで、生まれたての子馬の様な動きで近づいてくる。
右手には錆びた鎌。
よっぽど舌でも噛んで死のうか、と思ったその時、
「プルルルルッ」
叔父の携帯が鳴った。
号泣していた叔父は何故か放心状態の様になり、ダウンのポケットから携帯を取り出し見る。
こんな時に何してんだ…もうすぐ死ぬのに…と思い、薄闇の中、呆然と叔父を見つめていた。
まだ携帯は鳴っている。プルルッ。叔父は携帯を見つめたまま。ヤツが俺の方に来た。
恐怖で失禁していた。死ぬ。
その時、叔父が凄まじい咆哮をあげて、地面に落ちた懐中電灯を取り上げ、
素早く俺の元にかけより、俺のペットボトルを手に取った。
「こっちを見るなよ!!ヤツの顔を照らすから目を瞑れ!!」
俺は夢中で地面を転がり、グラサンもずり落ち、頭をかかえて目をつぶった。
ここからは後で叔父に聞いた話。
まずヤツの顔を照らし、視線の外で位置を見る。
少々汚い話だが、俺のペットボトルに口をつけ、しょんべんを口に含み、
ライトでヤツの顔を照らしたまま、しゃがんでヤツの顔にしょんべんを吹きかける瞬間目を瞑る。霧の様に吹く。
ヤツの馬の嘶きの様な悲鳴が聞こえた。さらに口に含み吹く。吹く。ヤツの目に。目に。
703 :その8:2008/01/17(木) 21:46:49 ID:U3a23e/90
さっきのとはまた一段と高いヤツの悲鳴が聞こえる。だがまだそこにいる!!
焦った叔父はズボンも下着も脱ぎ、自分の股間をライトで照らしたらしい。
恐らくヤツはそれを見たのだろう。
言葉は分からないが、凄まじい呪詛の様な恨みの言葉を吐き、くるっと背中を向けたのだ。
俺はそこから顔を上げていた。叔父のライトがヤツの背中を照らす。
何が恐ろしかったかと言うと、
ヤツは退散する時までも、不気味な歌を歌い、体をくねらせ、ゆっくりゆっくりと移動していた!!
それこそ、杖をついた高齢の老人の歩行速度の如く!!
俺たちはヤツが見えなくなるまで、じっとライトで背中を照らし見つめていた。
いつ振り返るか分からない恐怖に耐えながら…
永遠とも思える苦痛と恐怖の時間が過ぎ、やがてヤツの姿は闇に消えた。
俺たちはロッジに戻るまで、何も会話を交わさず黙々と歩いた。
中に入ると、叔父は全てのドアの戸締りを確認し、コーヒーを入れた。
飲みながら、やっと口を開く。
「あれで叔父さんの言う、興味はそれたって事?」
「うぅん…恐らくな。さすがに、チンコは惨めなほど縮み上がってたけどな」
苦笑する叔父。
やがてぽつりぽつりと、邪視の事について語り始めてくれた…
704 :その9:2008/01/17(木) 21:47:33 ID:U3a23e/90
叔父は仕事柄、船で海外に行く事が多い。詳しい事は言えないが、いわゆる技術士だ。
叔父が北欧のとある街に滞在していた、ある日の事。
現地で仲良くなった通訳も出来る技術仲間の男が、面白い物を見せてくれると言う。
叔父は人気の無い路地に連れて行かれた。
ストリップとかの類かなと思っていると、路地裏の薄汚い小さな家に通された。
叔父は中に入って驚いた。外見はみすぼらしいが、家の中はまるで違った。
一目で高級品と分かる絨毯。壺。貴金属の類…香の良い香りも漂っている。
わけが分からないまま叔父が目を奪われていると、奥の小部屋に通された。
そこには、蝋燭が灯る中、見た目は60代くらいの男が座っていた。
ただ異様なのは、夜で家の中なのにサングラスをかけていた。
現地の男によれば、『邪視』の持ち主だと言う。
邪視(じゃし)とは、世界の広範囲に分布する民間伝承、迷信の一つで、
悪意を持って相手を睨みつける事によって、対象となった被害者に呪いを掛ける事が出来るという。
イビルアイ(evil eye)、邪眼(じゃがん)、魔眼(まがん)とも言われる。
邪視の力によっては、人が病気になり衰弱していき、ついには死に至る事さえあるという。
叔父はからかい半分で説明を聞いていた。この男も、そういう奇術・手品師の類であろうと。
座っていた男が、現地の男に耳打ちした。
男曰く、「信じていない様子だから、少しだけ力を体験させてあげよう」と。
叔父はこれも一興と思い承諾した。また男が現地の男に耳打ちする。
男曰く、
「今から貴方を縛りあげる。誤解しないでもらいたいのは、それだけ私の力が強いからである。
貴方は暴れ回るだろう。私はほんの一瞬だけ、私の目で貴方の目を見つめる。やる事はただそれだけだ」
705 :その10:2008/01/17(木) 21:48:34 ID:U3a23e/90
叔父は、恐らく何か目に恐ろしげな細工でもしているのだろう、と思ったという。
本当に目が醜く潰れているのかもしれないし、カラーコンタクトかもしれない。
もしくは、香に何か幻惑剤の様な効果が…と。
縛られるのは抵抗があったが、友人の現地の男も、本当に信頼出来る人物だったので応じた。
椅子に縛られた叔父に男が近づく。友人は後ろを向いている。
静かにサングラスを外す。叔父を見下ろす。
「ホントにな、今日のアイツを見た時の様になったんだ」
コーヒーをテーブルに置いて、叔父は呟いた。
「見た瞬間、死にたくなるんだよ。瞳はなんてことない普通の瞳なのにな。
とにかく、世の中の全てが嫌になる。見つめられたのは、ほんの1~2秒だったけどな。
何かの暗示とか、催眠とか、そういうレベルの話じゃないと思う」
友人が言うには、その邪視の男は、金さえ積まれれば殺しもやるという。
現地のマフィア達の抗争にも利用されているとも聞いた。
叔父が帰国する事になった1週間ほど前、邪視の男が死んだという。
所属する組織のメンツを潰して仕事をしたとかで、抹殺されたのだという。
男は娼婦小屋で椅子に縛りつけれれて死んでいた。床には糞尿がバラ巻かれていたと言う。
男は凄まじい力で縄を引きちぎり、自分の両眼球をくり抜いて死んでいたという。
706 :その11、終わり:2008/01/17(木) 21:49:23 ID:U3a23e/90
「さっきも言った様に、邪視は不浄な物を嫌う。
汚物にまみれながら、ストリップか性行為でも見せられたのかね」
俺は一言も発する気力もなく、話を聞いていた。さっきの化け物も、邪視の持ち主だっという事だろうか。
俺の考えを読み取ったかのように、叔父は続けた。
「アイツが本当に化け物だったのか、ああいう風に育てられた人間なのかは分からない。
ただ、アイツは逃げるだけじゃダメな気がしてな…だから死ぬ気で立ち向かった。
カッパも、人間の唾が嫌いとか言うじゃないか。
案外、お経やお守りなんかよりも、人間の体の方が、ああいうモノに有効なのかもしれないな」
俺は話を聞きながら、弟の夢の事を思い出して話した。弟が助けてくれたんじゃないだろうか…と。
俺は泣いていた。
叔父は神妙に聞き、1分くらい無言のまま。やがて口を開いた。
「そういう事もあるかもしれないな…00はお前よりしっかりしてたしな。
俺の鳴った携帯の事、覚えてるか?あれな、別れた彼女からなんだよ。
でもな、この山の周辺で、携帯通じるわけねぇんだよ。見ろよ。今、アンテナ一本も立ってないだろ?
だから、そういう事もあるのかも知れないな…
今すぐ、山下りて帰ろう。このロッジも売るわ。早く彼女にも電話したいしな」
叔父は照れくさそうに笑うと、コーヒーを飲み干し立ち上がった。
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