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『ドルイド信仰』1/2

叔父さんシリーズ。
死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?234

211 :その1:2009/12/27(日) 23:05:16 ID:7jwJJ7JM0
ドルイドとは、ケルト人社会における祭司のこと。Daru-vid『オーク(ブナ科の植物)の賢者』の意味。
ドルイドの宗教上の特徴の一つは、森や木々との関係である。
ドルイドは、ヤドリギの巻きついたオークの木の下で儀式を執り行っていた。
柳の枝や干し草で作った編み細工の人形を作り、その中に生きたまま人間を閉じ込めて、
火をつけて焼き殺し、その命を神に奉げるという、人身御供の祭儀も行っていた。
刑罰の一種として、森林を違法に伐採した場合、
樹木に負わせた傷と同じ傷を犯人に負わせて木に縛り付け、樹木が許してくれるまで磔にするという刑罰もあった。

自分の叔父は仕事柄、船で海外に行く事が多かった。詳しい事は言えないが、いわゆる技術士だ。
1年の6~7割は海外(特に北欧)で仕事をしている様な人で、日本に帰って来ている時は良く遊んでもらったものだ。
今は既婚で、引退して悠々自適な生活を送っており、知識も豊富でバイタリティ溢れる快男児だ。
以前も2話程、叔父関連の話を書いているはずだ。その叔父にこんな恐ろしい話を聞いた。

当時叔父は30代で、彼女とマンションに同棲しており、幸せに暮らしていた。
ひょんな事からお隣さんと親しくなったらしい。お隣さんは年配の夫婦で、病気の子供が1人。
旦那さんも仕事柄、海外に飛ぶ事が多いとの事だった。
話題も合うという事で叔父とは意気投合し、その奥さんも温厚で、夕食を呼んだり呼ばれたりする仲にまでなったそうだ。

ある年の真冬。
そのご夫婦と賑やかな食卓を共にしていると、そのご夫婦の別荘の話題になった。
何でも、関東近郊の閑静な山奥に、別荘を1つ所有しているらしい。
近くには小川もあり、魚等も釣れ、年に1度は家族で病気の息子の療養がてら遊びに行くらしい。
どうやら今年は仕事の関係で行けなくなったらしく、叔父達に「良かったら使ってくれても良い」との事だった。
アウトドア好きな叔父は、喜んで使わせてもらう事になった。
そんな叔父と趣味も合った彼女も賛同したらしい。

そして翌年の年明け、叔父は彼女と共にその別荘へと向かった。


212 :その2:2009/12/27(日) 23:06:55 ID:7jwJJ7JM0
あまり舗装されていない山道を40分ほど登った場所にその別荘はあった。
別荘を目にした途端、彼女の溜息が聞こえたそうだ。感動ではない方の。
「ホント、掘っ立て小屋みたいな感じだよ。こっちは小洒落たロッジ的なモノを想像してたんだけどな。
 あの夫婦の説明を聞く限り、誰でもそう思うと思うよ」
叔父は苦笑しながら言った。
とにかく、その別荘はお粗末なモノだったらしい。
木造平屋で狭い玄関。猫の額ほどのキッチン。古びた押入れに入った布団。
暖炉がある広間がやや広い事だけは救いだったらしい。

来てしまったモノは仕方がないので、なるべく自分達が楽しむ事にしたと言う。
昼は川魚を釣ったり、近辺の林を散策し、野草を採ったり。
それらは夕飯には天ぷらとして食卓に並び、それはそれで楽しい夕飯だったそうだ。
「野草を採ってる時に、かろうじて遠くに別荘が見えるくらいの距離の、少しだけ森の深くに行ったんだが…
 その時に、ちょっと気になるモノがあってな。
 ナラ(楢)の木があったんだよ。クヌギなんだけどな。
 この森にクヌギの木って、ちょっと浮いててな。
 周りは違う種類ばかりだし、明らかにそこだけ近年植林したんじゃないかなぁ。上にヤドリギも撒きついてたよ。
 クヌギは、10年も経てば大きくなるからな。
 で、気味が悪いのが、そのクヌギに何か文字が彫ってあってな。
 オガム文字って言ってな。古代のドルイド(上記参照)等が、祭祀に使ってた文字なんだよ。
 横線を基準と見て、その上下に刻んだ縦や斜めの直線、1-5本ほどで構成されててな、
 パッと見文字には見えないんだが…
 ま、何て書いてあるかまでは分からんが、不気味ではあるよな。日本だぜここは」
叔父の様にオカルト方面に知識がある人から見たら、確かに不気味なのだろう。

そんなこんなで、その日の就寝の時に事件は起こった。
叔父が窓や玄関の戸締りを確認しようとしていた時の事だった。
「何で最初に気がつかなかったんだろうな。鍵がな、外側にも付いてるんだよ」
つまり、窓の内鍵とは別に、窓の外側にも鍵が付いているのだ。玄関の入り口の戸にも。
「これはヤバイと思ったな。部屋の中に家具が異様に少ないのも、実は気になってたんだよ。
 生活に必要最小限のモノだけ…それも、全て木造で燃えやすく…
 パッと思い浮かんだのが、ウィッカーマンだな」


213 :その3:2009/12/27(日) 23:07:45 ID:7jwJJ7JM0
映画にもなり、近年リメイクもされたのでご存知の人も多いと思うが、上記でも書いた様に、
『柳の枝や干し草で作った編み細工の人形を作り、
 その中に生きたまま人間を閉じ込めて、火をつけて焼き殺し、神に捧げる』
と言うおぞましい秘儀が、古代ドルイドの祭儀であるのだ。
それを英語では『ウィッカーマン(wicker man)』、編み細工(wick)で出来た人型の構造物と言うらしい。

「彼女を不安がらせない様に、その事や鍵の事も秘密にし、俺だけ起きてる事にしたよ。全部の内鍵開けてな。
 そしたら、夜中だよ」
砂利を踏む音と、人の気配が別荘の外でした。
すかさず窓を開ける。例のお隣の夫婦の旦那だった。
「何をなさってるんですか?」
叔父に急に見つかり、厳しい声を投げかけられた旦那は、驚愕の表情でしどろもどろだったと言う。
「いや、その…大丈夫かなと…」
「大丈夫じゃなないですよ。その缶は何です?灯油の缶じゃないんですか?」
「い…いや…ストーブの灯油を、切らしちゃいかんと思ってね…」
「暖炉がありますよね?」
「いや…まぁ」

叔父は外鍵の事を厳しく追及した。
旦那が弁解するには、この別荘も人から譲り受けたモノで、外鍵はその当時からついていたらしい。
「信じるわけないわな。そんな気味の悪い家で誰が泊まりたがる?」
叔父はまったく旦那の言う事は信用しなかった。

外の騒ぎで寝ていた彼女も起きだし、不安そうな顔を覗かせていた。
「○○さん(旦那)…あんた、ドルイドの何かやってるんじゃないでしょうね」
「は…?何ですかそれは」
「とぼけたって良いんですよ?裏の森のクヌギ。良い薪になりそうだなぁ」
「な…何を言うんですか!!」
「あんた、俺らをウィッカーマンにして、捧げようとしたんじゃないのかっ!!」
「…」
「本当の事を言わないのならクヌギを切り倒す」と脅した叔父に対し、旦那は全てを話し始めた。


214 :その4:2009/12/27(日) 23:08:32 ID:7jwJJ7JM0
前にも述べた通り、この夫婦には重い病気の息子がいる。
治療法は、病の進行を遅らせる強い副作用のある方法しかない。
あらゆる方法を試したが、病は一向に癒える気配は無かった。
そんな藁にも縋る思いも極まった時の事。
15年前、仕事先で訪れたウェールズのある村で、ドルイドの呪術師に出会ったと言う。
そのドルイドの呪力が篭ったオークの木の苗を、大枚叩いて旦那は買い、日本へ持ち帰った。
そのドルイドから授けられた秘術は、
『毎月6日に、白い衣装を見に付けオークの木に登り、
 ドルイドから譲り受けた(これも大枚叩いて買ったらしい)鎌で、オークに寄生しているヤドリギの枝を切り取り、
 生贄をオークの木に捧げる』と言うものらしい。
その祭儀の見返りの願いは言うまでも無く、息子の病を治す事だ。

「確かに、その日は1月6日だったなぁ…」
「生贄って…」
俺は恐る恐る叔父に聞いた。
「最初は小動物とかだったらしいよ。ハムスターとか、野良猫とか、犬とかな。クヌギの木の根元に埋めて。
 心なしか、大きな動物になればなる程、息子の病が良くなっている様な気がしたらしい。
 まぁ、そのドルイドに1杯食わされたんだろうけどな。
 でも、病気の子供を持つ、悲しい親の愛とは言えども、あんまりじゃないか?俺らを焼き殺そうとするなんて」
叔父は笑いながら言った。

それから、懇々とその旦那を説き伏せたらしい。
人を呪わば穴二つ。そんな事をしても何も良い事はない。
オカルト方面に詳しい叔父だけに、様々な知識も動員して旦那を説き伏せた。

「50にもなろうかと言うオッサンが、声上げて泣いてたなぁ。
 まぁ、俺らも殺されそうにはなったとは言え、その旦那の気持ちも分からんでもないからなぁ。同情心もあって。
 彼女も少しもらい泣きしてたかな。
 旦那も、クヌギも別荘も処分する事を約束してくれてな。明日にでも、特にクヌギの処分は俺ら同伴で」
「じゃあ、この件は、警察沙汰にもならずに一件落着、と」
「ところがなぁ。あのオークは(本物)だったんだなぁ」

「『ドルイド信仰』2/2」に続く

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