師匠シリーズ。
「『デス・デイ・パーティ』1/2」の続き
【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ14【友人・知人】
430 :デス・デイ・パーティ ◆oJUBn2VTGE :2010/09/12(日) 00:23:28 ID:JDXpPZZg0
次は少し難しかった。
あれこれいじってみて、ようやくそれらしい形になった。
X=1-(1-1+1-1+1-1+1-1+1-1+1-1+ ……)
X=1-((1-1)+ (1-1)+ (1-1)+ (1-1)+ (1-1)+ (1-1)+ (1-1)+ ……))
永遠の数式の最後を括弧で閉じるのが少し気になったが、多分これが正解だ。
大括弧の中が一つめと同じ形になったので、あとは簡単。
X=1-(0 + 0 + 0 + 0 + 0 + 0 + 0 + ……)
X=1-0
答えはX=1。これで二つめだ。
とんとんと二つめまで辿り着いたので、案外簡単じゃないかと安堵したのだが、ここからが難問だった。
どういじっても、どう括弧で括っても、一つめか二つめの形の亜種にしかならず、
結局0か1かという答えになってしまうのだ。
頭がこんがらがってきた俺は、これまでのパターンをみんなに見せて確認してもらった。
「おい、少年。すごいじゃん。さすが学生」とみかっちさんが褒めてくれたが、あなた俺と同じ大学でしょう。
それにやってみて思ったが、これは数学というよりパズルだ。
京介さんが戻ってきてから、俺は全員に同意を得て代表としてとりあえずここまでの答えをcoloさんに告げた。
「0と1ね。正解!あと一つ」
「なにかヒントはないですか」と頼んでみたが、「ない」と実につれない。
仕方がないので、全員で知恵を寄せ合いいろいろ考えてみる。
しかし括弧での括り方なんてそれほど多くのパターンはなく、似たような形になるばかりで、
どうあがいても0か1かになるのだった。
「発想の転換が必要」と宣言して、みかっちさんが書き出した式も結局なにも変わらなかったし、
「他二つが0と1なんだから、その前後じゃないか」ということで、
「2かマイナス1」という答えが直感派の間で主流になったりしたが、
裏付けが取れないためGOサインが出ないのであった。
「発想の転換が必要だ」
その言葉を十回くらい聞いたが、なんの足しにもならなかった。
書いた紙が散乱し、下剤の恐怖と戦いながら、殺伐とした空気を吸って吐いて俺たちは考え続けた。
ふと顔を上げると、coloさんが椅子に座ったまま、退屈そうに足をぶらぶらしている。
まずいな。そろそろ答えないと。
そんな停滞する場を打開し、答えを導き出したのは意外な人物だった。
手持ちぶさたのcoloさんが腕時計を覗き込んだ瞬間だ。
「わかった」
そんな言葉が部屋に響いた。
全員の視線が集まる先には、みかっちさんがいた。
「うそ」と沢田さんが言ったが、みかっちさんは人差し指を左右に振って、「あたし天才かも」と目を瞑る。
「いい?発想の転換が必要だったのよ。答えから言うわね。意外や意外、三つめのXの正体はに……」
そこまで言い掛けたみかっちさんの口を誰かの手が塞いだ。
疾風のように動いた人物は京介さんだった。
434 :デス・デイ・パーティ ◆oJUBn2VTGE :2010/09/12(日) 00:32:29 ID:JDXpPZZg0
「バカ。勝手に答えるな」
真剣な顔でみかっちさんの抵抗を力ずくで抑える。そして矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「解けたぞ。ヒントは時計だ。沢田さん、coloの口を塞げ」
え?とみんな唖然とする中で、沢田さんが条件反射的にcoloさんの口を塞ぎにかかった。
「ちょっと、なに」
抵抗するcoloさんの手を、俺も一緒になって押さえつける。
京介さんの方は、みかっちさんが大人しくなったところで手を離し、
部屋にあったタオルを手に取ると、押さえつけられているcoloさんの口を覆った。
猿ぐつわだ。
「ふぁいふぅおぉ」
突然の暴挙にcoloさんが戸惑いながら訴える。
「これは予知してなかったか?焦点になっている答えに関わる部分以外は、捉えられていないようだな。
無理に喋らせようとしたら失格だと言ったが、喋らせないのはかまわないはずだ」
京介さんはゆったりした動きで、coloさんの前に両手を組んで立ちはだかった。
「おまえの予知が本物という前提で話す。
いいか。問題は、解Xを三つ答えろという内容だ。一つでも間違えたらアウト。
つまり、さっきこのバカが答えてしまっていたら、失格だったということだ。
そして、その結果を予知したおまえは、過去のケーキを用意した時点で中に下剤を仕込む。
それでこれから私たちは、地獄の苦しみという展開だ。
行為が終了しているにも関わらず、下剤が入っていたかどうか、
食べた後にも分からないのが、このゲームのミソなわけだが……」
京介さんは、みんなで綺麗に平らげたケーキの空箱を指さす。
「ミスをしたな。おまえはこのゲームの制限時間を決めていない」
俺はその言葉にハッとした。そうだ。その通りだ。
436 :デス・デイ・パーティ ◆oJUBn2VTGE :2010/09/12(日) 00:35:57 ID:JDXpPZZg0
「私たちはこれから、『最後の三つめをなかなか答えない』という行動に出る。
するとなにが起こるか。分かるな。
下剤が効いてくるはずの時間を超過するんだ。
何ごともなくその時間が過ぎたら、下剤は入れられていなかったということ。
もし仮に腹が痛み出したら、下剤は入っていたということになるが、私たちはなにもミスをしていない。
間違えてもいない、制限時間もない、無理に喋らせようとしていない。
そして、腹が痛み出したら未来永劫、絶対に三つめを誰一人答えないことを宣言する。
にも関わらず下剤を入れていたとしたら、これはアンフェアだ。
入れられる理由なんてないのだから、論理によって成り立つゲームの根底を崩してしまう。
ここまでは私の理屈だ。だがおまえは今、『それは確かにアンフェアだ』と思ってしまった」
京介さんの力強い言葉につられ、俺も他のみんなも頷いてしまった。
coloさんは表情を引っ込めて反応もしなかった。
「口を塞がれ、これからルールを追加することも出来ないおまえは、結局下剤を入れられない。こちらの勝ちだ」
見事な勝ち名乗りだった。
俺たちは感心して思わず手を叩いた。すごい。これこそが発想の転換だ。
coloさんの頭ががっくりと落ちた。観念したらしい。これからなにが起こるか理解できたようだ。
下剤が入っていなかったと俺たちが確信できるまで拘束されるのだ。
筆記等によるルール追加もできないように、部屋にあった布類で縛り上げる。
その作業は女性陣が行ったのであるが、なんだかいけないものを見ているような気がしてドキドキする。
椅子に座ったまま身体の自由を奪われたcoloさんの目に、涙が浮かんだのが見えた。
やばい。可哀想になってきた。自業自得なのに。
「で、下剤ってどのくらいで効くの」
みかっちさんの言葉に、部屋の中がシーンとする。
たぶん四,五時間というファジーなところで意見が落ち着き、念のために六,七時間くらい余裕をみることにし、
なんだかんだで結局朝まで宴が開かれることになった。
パーティの主役であるcoloさんの目の前で、俺たちは語り合い笑い合いふざけあい、語り合った。
coloさんにメソメソと泣かれたらどうしようと思ったが、変な格好のままあっさりと本人は寝てしまい、
俺たちは心おきなく時間をつぶすことができた。
438 :デス・デイ・パーティ ラスト ◆oJUBn2VTGE :2010/09/12(日) 00:39:52 ID:JDXpPZZg0
後から考えると、
とっとと解散するとか、『もうやめよう』と言ってcoloさんと休戦条約を締結するとか、
下剤の箱やレシートがあるかどうか探すとか、色々やり方があったような気もするし、
どうしてcoloさんはこの展開を予知できなかったのかとか、
京介さんの未来予知に関する考え方にも多少の疑問点もあったが、
その時の俺たちは、そういう細かいことを抜きにして、楽しい時間を過ごすことに全力を尽くし、
変な角度からの青春をとにかく謳歌していたのだった。
この混沌としたデス・デイ・パーティの顛末に付け加えることが一つ。
夜中の十二時を回ろうかというころ、電話が鳴った。携帯ではなく、coloさんの自宅の電話だ。
眠っているcoloさんをちらりと見てから、京介さんが受話器を取る。
「はい」
相手と二言三言会話を交わしてから受話器を置く。
そしてcoloさんのところへ行って肩を叩いた。ゆっくりと彼女は目を開く。
「あの変態から電話。『おめでとう』。以上」
そして京介さんは、またみんなの輪に戻っていく。
俺はそのやりとりを見ていて、なんだか不思議な気持ちになった。
はっぴですでいつーゆうと言われても、まったく嬉しそうな様子を見せなかったcoloさんが、
初めてニコッと笑ったのだ。
また目を瞑り、眠りにつこうとする彼女を見ながら、
俺はふと今日は、coloさんの本当の誕生日だったのかも知れない、と思った。
「ちょっと、あたし、合ってたじゃない!」
腹を痛めることもなく無事に迎えた次の朝、coloさんの拘束を解いて解散となったとき、みかっちさんが叫んだ。
出題者であるcoloさんから、三つめの答えの説明があったのだ。
X=1-(1-1+1-1+1-1+1-1+1-1+1-1+ ……)
このとき、右項の括弧内は最初の式である、
X=1-1+1-1+1-1+1-1+1-1+1-1+ …… の右項と等しくなるため、
X=1-X
2X=1
X=1/2
となるのだそうだ。ほんとかよ。
「にぶんのいちって言おうとしたのに。あたし算数得意なんだから」
算数というあたりが信用できなかったが、そういうことにしてあげた。
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