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『デス・デイ・パーティ』1/2

師匠シリーズ。
【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ14【友人・知人】

420 :デス・デイ・パーティ ◆oJUBn2VTGE :2010/09/12(日) 00:06:19 ID:eR8sQKUR0
大学一回生の冬。俺は当時参加していた地元系のオカルトフォーラムの集まりに呼ばれた。
いや、正確には、見逃していたのかそのオフ会の情報を知らず、
家でぼーっとしていたところに電話がかかってきたのだ。
『来ないのか』
京介というハンドルネームの先輩からのありがたい呼び出しだった。
俺は慌てて身支度をして家を飛び出す。時間は夜八時。
向かった先は、coloさんというそのフォーラムの中心的人物のマンションで、
これまでも何度か彼女の部屋でオフ会が開かれたことがあった。

ドアを開けると、もうかなり盛り上がっている空気が押し寄せてくる。
「お、キタ。キタよ。はやく。こい。はーやーく」
みかっちさんという女性が、かなりのテンションでこちらに手を振っている。
部屋の中にはすでに五人の人間がいて、
それぞれジュースをテーブルに並べたり、壁にキラキラしたモールをかけたりしていた。
そしてテーブルの真ん中には、いかにもお誕生日会でございますという風体のケーキが鎮座していて、
そのホワイトクリームの表面には、チョコレートソースで『colo』と書いてあるのだ。
なんだ。coloさんの誕生日パーティなのか。
いつもは降霊会なんておどろおどろしいことをしているオフ会なのに、今日はずいぶん可愛らしいな。
と思ったが、やがてこの人たちを甘く見ていたことを思い知ることになる。

用意されていたローソクがケーキの上に立てられて行くのを、coloさんは一番近い席でじーっと見ている。
あいかわらずよく分からない表情だ。嬉しそうにしてればいいのに。
やがてローソクをすべて並べ終え、「じゃあ始めよっか」というみかっちさんの一言で部屋の電気が消された。
暗くなった部屋の中で、真ん中のテーブルのあたりに水滴のような形の光が仄かに揺れている。
無意識に数えた。
ひとつふたつみっつ……あれ?目を擦る。
ゆらゆらとしている火の数が、何度数えてもおかしい。十六個しかないのだ。
coloさんは同じ大学の三回生で、その誕生日なのだから、二十一個より少ないということはないはずだ。
よく見ると、真ん中に一つだけ大きなローソクがあるから、
もしかしてそれが十歳分とか五歳分なのかも知れないが、それでも数が合わない。
五歳分だとしても、十五足す五で二十歳にしかならない。
六歳分?そんな半端な数にするだろうか。
考えていると、歌が始まってしまった。
以下、聞いたまま記す。


421 :デス・デイ・パーティ ◆oJUBn2VTGE :2010/09/12(日) 00:09:45 ID:JDXpPZZg0
はっぴですでいつーゆう
はっぴですでいつーゆう
はっぴでーすでいでぃあcoloちゃん
はっぴでーすでいつーゆう

は?なんだそれ。『ハッピー・デス・デイ・トゥー・ユウ』だって?
俺は混乱する。誰かのクスクスという忍び笑いが聞こえる。
「け、消して。coloちゃん。ローソク。消して」
みかっちさんが吹き出しそうになるのをこらえながら言う。
「うん」という声がして、coloさんが真ん中の大きなローソクの火に息を吹きかける。
フッと、一つの火だけが消える。
わずかな静寂の後、「おめでとー」という声が重なってパチパチという拍手が響いた。
そして電気がつけられる。
「デス・デイ、おめでとう。あと十五年!」
みかっちさんがそう言ったあと、お腹を抱えて笑い出した。
ケーキの上には、火のついたままのローソクがまだ十五個残っている。
なにがなんだか分からない俺は、ずっと硬直していた。

説明を聞くところによると、どうやらこういうことらしい。
coloさんは異常にカンが鋭い女性で、それはほとんど未来予知と言っていいようなレベルに達しているのだが、
本人いわく、危険度の高い情報ほど、基本的には早期に知ることが出来るのだそうだ。
野良猫を撫でようとして引っ掻かれる時には二日前に、カラスに頭を突っつかれるときには三日前に、という具合だ。
どうして彼女がカラスに頭を突っつかれなければならないのかよく分からないが、とにかくそういうことらしい。
そんな彼女にとって危険度マックスの情報とは、つまり自分の『死』である。
彼女はその日時をすでに知っているというのだ。
それがバース・デイならぬデス・デイであり、
今日十六個目のローソクの火が消えたといことは、余命があと十六年を切ったということなのだろう。
なぜそんな日を祝うのか理解に苦しむが、
親しい友人たちを呼んでデス・デイ・パーティを開くというのが、昔からの慣習になっているのだそうだ。
祝えねーよ。
六等分に切り分けられるケーキを見ながら、そう突っ込みたくて仕方がなかった。


424 :デス・デイ・パーティ ◆oJUBn2VTGE :2010/09/12(日) 00:12:32 ID:JDXpPZZg0
デス・デイ・パーティという恐ろしげな名前とは裏腹に楽しく場は進み、
coloさんの手料理やケーキで腹を満たしつつ、
「わたしも寿命しりたーい」などというみかっちさんの不謹慎な発言に、
「本当に知りたいの」というcoloさんの静かな答えが返り、
「あ、うそ」と黙り込んだりということもありながら、とうとう宴もたけなわというころになった。

「はい、じゃあこれからゲームをしましょう」
coloさんがそう言って手を叩いた。みんなが注目する。
「えーと。みんな、今日はわたしのデス・デイをお祝いしてくれてありがとう。
 そのお返しに、スリリングなゲームを用意しました。
 とっても危ないゲームだけど、きっとみんなならクリアできるよ」
みかっちさん、京介さん、沢田さんという女性陣に、
俺、山下さんという男性陣の合わせて五人が、それぞれ顔を見合わせる。
「これから問題を出すから良く聞いてね」
俺たちの目の前でcoloさんが白い紙を取り出し、マジックペンで数字を書き始めた。

X=1-1+1-1+1-1+1-1+1-1+1-1+ ……

なんだろう。1の間にマイナスとプラスが交互に入っている単純な数式だ。
最後の点々は、これがずっと続くという意味か。
「この永遠に続く数式の解が、実は三つあるの。その解Xを、三つとも答えてね。
 ただし、一つでも間違えたらアウト。
 答えはみんなで相談して、代表者が答えてね」
三つ?三種類も解があるのか?単純そうに見えて難しい問題なのかも知れない。
数式を覗き込みながらそう考えてると、coloさんがとんでもないことを付け加えた。
「もし答えられなかったら罰ゲームに、さっきみなさんが食べたケーキ。あれに下剤を入れちゃうよ」
はあ?全員目を剥いた。意味が分からない。もう食べ終わったケーキに今から下剤を?
なんの冗談かと笑おうとした瞬間、以前体験した恐ろしい記憶が蘇ってきた。
『種類の違うお札の入った箱を選べ』というゲームなのだが、
coloさんが俺の選択をあらかじめ予知しているというのだ。
結局現在進行形の行為が、過去に遡って影響を与えるという事象の不可解さに、
怖じ気づいた俺は白旗をあげてしまった。
そのゲームと同じ構造だというのか。
もしこの問題を答えられなかったら、
その結果を予知した過去のcoloさんが、ケーキにこっそり下剤を仕込むということか。
すでにケーキは食べ終わっているというのに!


425 :デス・デイ・パーティ ◆oJUBn2VTGE :2010/09/12(日) 00:16:40 ID:JDXpPZZg0
味は?変ではなかったか?
口に残ったケーキの余韻を確かめようとするが、
やたらスパイシーだったチキンのおかげで完全に消えてしまっている。
「ちょっと、冗談でしょ。入れたの?入れなかったの?」とみかっちさんが詰め寄る。
他のみんなも真剣な表情に変わった。
きっと多かれ少なかれ、箱の時の俺と同じような経験をしているのだろう。
「答えたら面白くないじゃない。無理に喋らせようとしたら、失格ね」
ハッとしたようにみかっちさんが手を引く。
なんてこった。とんでもない事態だ。さっきまでの楽しいパーティはどこに行ってしまったのか。
当事者のcoloさんは無表情で、なにを考えているのか分からない。
「はい、じゃあ、紙とえんぴつを支給します。頑張ってね」
配られたものを眺めながら、五人は『やるしかないのか』という顔になっていた。
「恨むわよcoloちゃん」というみかっちさんの言葉に、
「スリルがあった方が楽しいでしょう」という脳天気な答えが返る。

そしてゲームが始まった。
とりあえず、無限に続くという部分に惑わされてはいけない。
式を紙に書き出してからそう考える。単純化するのだ。
高校時代数学の成績は酷かったが、ここは俺とみかっちさんの現役大学生コンビが頑張るしかない。
そう思ってみかっちさんを見ると、
沢田さんと二人で、『最後がプラス1で終わるのかマイナス1で終わるのか』という論争をしている。
いや、終わらないから。
みかっちさんを見限った俺は、一人でやるしかないと気合いを入れた。
山下さんも一応紙に向かっているが、あまり自信がなさそうだ。
京介さんは初めからやる気がなく、煙草を吸いにベランダに出ていってしまった。

とりあえず俺は式を括弧で括り、単純化することにした。
そうすると、一つめの答えはすぐに見つかった。
X=(1-1)+ (1-1)+ (1-1)+ (1-1)+ (1-1)+ (1-1)+ (1-1)+ ……
X=0 + 0 + 0 + 0 + 0 + 0 + 0 + ……
ゼロを永遠に足し続けるわけだから、Xは0だ。まず一つ。

「『デス・デイ・パーティ』2/2」に続く

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