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『引き出し』2/3

師匠シリーズ。
「『引き出し』1/3」の続き
【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ8【友人・知人】

145 :引き出し ◆oJUBn2VTGE:2009/02/22(日) 23:11:58 ID:vbLvaS0Q0
「瑠璃ちゃんのベッドのそばに小さいタンスがあって、中に下着とか小物とかが入ってるんだけど、
 その引き出しのひとつが開いてるのね。
 夜寝る前には、全部閉まってたはずなのに」
この『初対面の人には声を聞かせません』とでも言いたげなキャラ作りに、だんだんと苛立ってきた。
格好といい、自分が普通じゃないことをそんなにアピールしたいのか。
俺の苛立ちを気にもせず、音響の通訳は続く。
俺はどっちの顔を見ながら聞いていればいいのか迷いながら、交互に視線を向けた。
「あれっ?変だなって思ってると、その開いた引き出しから何かがチラッと動くのが見えて、
 そこに意識を集中していると、ゆっくりじわじわ、なにか白いものが中から出てくるのよ。
 すぐに人間の手だってことはわかるんだけど、もちろん、誰かが中に隠れちゃえるような引き出しじゃないし、
 指が見えて、手のひらが見えて、手首が見えて、腕が見えて、肘が無くて、ズルズルありえないくらい伸びて。
 でも動けなくて。目が逸らせなくて。怖くて。
 それから、その手が何かを掴んで、またズルズル引き出しに戻っていって、
 ズルって全部隠れて見えなくなったら、やっと起きられるの」
デジャヴを感じた。
何故だろう。ゾクゾクした。この話はまるで、金縛中に起きるバッドトリップのようだ。もしくはただの夢か。
「それ、起きられるようになるまでは、ほんとに動けないのか? 
 それから、起きられるようになるのって、急に? 
 そこで、開けてたはずの目が、もう一度開いたような感覚がない?」
音響が通訳する。
動けないというよりは、動きたくないって感じの十倍濃縮版。起きるのは急に。そんな感覚ない。
『動きたくない』という感覚は、金縛りのパターンからは外れるようだ。
金縛りはたいていの場合、『動きたい』はずだ。
それに、入眠時幻覚の類にしても、朝の目覚めの時におこるというのはよくわからない。
そんなこともあるのだろうか。覚醒時幻覚とでもいうのか?


149 :引き出し ◆oJUBn2VTGE:2009/02/22(日) 23:16:34 ID:vbLvaS0Q0
低血圧というのがそもそもあまりイメージがわかない。
それに、その『手』はなんだ。
「動けるようになってから、引き出しを見たらどうなってる?」
「開いたまま。中を覗いてみても何もない。下着とか靴下とかだけ」
「その手が掴んで、タンスの中に引きずり込んだものって、なに?」
「わからない。覚えてない。多分、それを見ている時には知ってたはずなのに、消えた時には思い出せなくなってる」
なるほど。何が無くなったかも分からないわけだ。
つまり、この出来事は、何も消えたものがなくても成立する。
ふと、以前読んだ本のことを思い出した。
そこには、夢は不要な短期記憶を脳の引き出しの奥深くに沈めて、
頭の中を整理している最中に再生される、フィルムの断片なのだと書いてあった。
断片の中には脳を活性化させる強い記憶もあり、
それらを合成し、理解しうるものに再構築されたものが、レム睡眠時に上映されているもので、
そこからカットされた断片は、脳の記憶野を圧迫しないように、『忘れられていく』のだと。
それが本当のことかは知らない。
ただ俺は『引き出しの手』に、なにか寓意的なものを感じざるを得なかった。
「もしかして、その手が掴んでいったものって、自分にとって要らないものだったんじゃない?」
二人でボソボソと相談でもするように耳打ちしあってから、瑠璃は首を左右に振る。
「大切なものだったかも知れない。それさえ分からない。
 ベッドから体を起こして、自分の部屋を見回したら、
 何か大事なものを無くしてしまったような気がして、とっても悲しくなる」
今聞いているこの話が、単純に彼女たちの嘘ではないとしたら、気持ちの悪い話だ。ますますゾクゾクしてくる。
嫌いではない。この感覚は。
「それが、何度も続けて起こるのか」


151 :引き出し ◆oJUBn2VTGE:2009/02/22(日) 23:20:34 ID:vbLvaS0Q0
「一ヶ月くらい前から。二,三日にいっぺん。あ、でも、最近は毎日かも、だって」
俺は少し考えた。カンカンと、使わなかったスプーンの柄で机を叩く。
「本当に何かが部屋から消えているのか、知る方法がある」
二人の少女がこちらをじっと見ている。
スプーンで目の前を払う真似をして続けた。
「その部屋から、ベッドと引き出し以外、全部外に出す」
少しして息を吸う音がかすかに聞こえた。
「そうすれば、もし手が出てきて、『何か』を掴んで引き出しに消えていったと感じたなら、
 その喪失感は錯覚だ、ということになる」
何も部屋になかったことは確認済みなのだから。
俺は上手いことを言ったつもりだった。我ながら良いアイデアだと思った。
けれど、瑠璃が体験したというその不可解な出来事を、夢、もしくはなんらかの幻覚だと半ば決め付けていた俺と、
そうではない彼女自身との間には、大きな発想の隔たりがあったのだ。
瑠璃はふるふると震えながら、音響の耳元に口を寄せる。
「そんなことをして、手がどこまでも伸びてきて、ベッドの上の私を掴んだら……」
ゾクリとした。空気が張り詰める。
しまった。油断した。
経験上、過剰な怯えは、本人と周囲の人間に良くない影響を及ぼす。中でも一番困るのは、泣かれること。
「ひどい」と言って、音響が隣の少女をかばうような仕草をした。
そして「どういうつもり」と冷たく言い放ち、俺を軽く睨む。
どういうつもりも何も、俺は協力的に解決策を提出したつもりだった。
だがそれは、他人の悩みを真剣に考えないオトコという、不本意なレッテルを相手方に貼らせただけだった。
また、負い目だ。


153 :引き出し ◆oJUBn2VTGE:2009/02/22(日) 23:25:24 ID:vbLvaS0Q0
この音響という少女には、いいように振り回されているような気がする。
「わかった。それはナシ」
肩を竦める。
結局、俺は気がつくと、その手の出てくるという引き出しのある寝室で、現地調査することを約束させられていた。

その二日後だ。曜日は土曜。
俺は欠伸をしながら自転車をこいでいた。まだ夜も明けやらぬ早い時間。
暗い空の深みのある微妙な色彩に目を奪われながら、微かな肌寒さにシャツの裾を気にする。
今日は暑くなるとニュースでやっていたはずなのに。
ガサガサと妙にかさ張る手書きの地図を苦労して広げ、目的地を確かめる。
なんだ。もうすぐそこじゃないか。
そう思いながら角の塀を曲がると、薄闇の中に浮かび上がる、小綺麗な白い三階建てのマンションが目に入った。
おいおい。高そうな所に住んでるじゃないか。
高校生の身分で一人暮らしと聞いて何様だと思ったが、もしかすると親がかなりの金持ちなのかも知れない。
駐輪場に自転車を停め、階段を上る。向かうは三階の角部屋だ。実にけしからん。

指定されたドアの前に立つが、まだ音響の姿が見えない。ちょうど待ち合わせの時間なのに。
まだ周囲は暗く、朝のこんな早い時間に、女性の部屋の前でうろうろしているのは実に気まずい。
辺りを気にしながら、念のためにドアノブを捻ってみたが、やはり鍵が掛かっている。
音響を待つしかないようだ。その場でしゃがみこむ。
何故俺はこんなところでこんなことをしているのだろう。そう思いながら、憂鬱な思いで額に指をあてる。
要は、寝起きにタンスの引き出しから手が出てくる幻覚を見るという、
緑の目の令嬢瑠璃の悩み解決のための現地調査だ。


156 :引き出し ◆oJUBn2VTGE:2009/02/22(日) 23:30:36 ID:vbLvaS0Q0
完璧を期するなら、ずっと部屋の中で寝ずの番をしていた方がよいのだろうが、
初めて会ったうら若き少女の部屋で夜を明かすなど、俺にしても避けたいものがあった。
聞くところによると、目覚ましを掛けなくとも、彼女はいつもだいたい決まった時間に目が覚めるのだという。
ただ低血圧なもので、そこから起き上がるまでが長いのだとか。
そして俺と音響は、その目が覚める時間の少し前に部屋に行き、
実際にその場でなにが起こっているのか確かめる、という作戦だった。
なのに、その音響が来ない。今日のために合鍵を渡されているのはヤツなのに。寝坊しやがったのか。
ドアの前でイライラしながら待つこと二十分。小さな足音とともに、ようやく音響が姿を現した。
「アホか」
思わず毒づいていた。
近づいてくるその姿は、先日のカレー屋の時とほとんど変わらない、ゴシックな風体だったのだ。
待ち合わせの時間に遅れてまで譲れないのか、その格好は。
問い詰めて言い訳を聞くのも空しくなるだけなので、
「いつも可愛いなあ」と嫌味だけ言っておいて、ドアを指差し開けろとジェスチャーをする。
音響はロクに謝りもせずに鍵を取り出すと、ドアノブにあてる。
金属が擦れる小さな音とともにドアが開かれ、二人してその中に滑り込む。
玄関からして広い。まずそこに驚く。俺の部屋とどうしても比較してしまう。
暗い中を半ば手探りで進む。もちろん足音を殺して。
余計な物音を立てて、中で眠る少女の普通の目覚めを妨げてはいけない、という配慮からだ。
音響が摺りガラスの嵌め込まれたドアの前に立ち、唇に人差し指を立ててみせる。


157 :引き出し ◆oJUBn2VTGE:2009/02/22(日) 23:33:58 ID:vbLvaS0Q0
分かっている、と俺が頷くと向き直り、そっとノブを引いていく。
視界にわずかな光が差す。部屋のカーテンの隙間から、薄っすらとした朝日が漏れている。
もうすぐ夜が明けてしまう。余計な時間を掛けたからだ。
そう思ったのも束の間、目の前に広がる室内の様子に唖然とする。
ダイニングとリビングを兼ねたような間取りのかなり広い部屋に、所狭しと家具や物が並べられている。
明らかに普段の生活上のものではない。
部屋の真ん中や居住空間を侵すような場所に、それらが置かれていたからだ。
散らかってるのとは違う。強いて言えば、引越しの最中のような印象だ。
ただ、普段この部屋にあるらしい家具類は、きちんとあるべき場所に収まっているように見える。
要するに『多い』のだ。どこか別の場所から余分な家具が運び込まれているのか。
ハッとした。
二日前のカレー屋で話したこと。
『その部屋から、ベッドと引き出し以外、全部外に出す』
却下されたはずの俺の提案を、彼女は俺たちが来るのに合わせて実践してしまったのか。
見ていてくれている人がいるからと安心して。
嫌な予感がした。
その無造作に置かれた家具たちを、幾筋かの淡い光線が照らす。
音響が硬い表情で俺のシャツを引っ張る。その指さす先には、別の部屋に通じるドアがあった。
寝室か。
ゴクリと唾を飲み込む。
家具はこの向こうの部屋から持ち込まれたものに違いない。ということは、この向こうには……

「『引き出し』3/3」に続く

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