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『葉書』2/2

「『葉書』1/2」の続き
ほんのりと怖い話スレ その52

322 :葉書 ◆.3caeW6ZtI :2008/10/10(金) 21:58:42 ID:7ThOerxMO
私はそこまで話を聞いて、
「そんなの誰かのいたずらでしょう。そのさぁちゃんって子が言った通り、誰かが見ていたんじゃないの」
と言いました。
すると彼は、なおも震えながらこう言いました。
「だって、おかしいじゃないか。
 あの日はすごく風が強くて、大きな木がぐわんぐわんゆれて、落ちた葉っぱが舞ってたんだ。
 なのに、どうしてあんな葉書だけ、賽銭箱から吹き飛ばされなかったんだよ?」
そうして彼は、また話を続けました。


323 :葉書 ◆.3caeW6ZtI :2008/10/10(金) 22:05:53 ID:7ThOerxMO
葉書を見た後、彼らはうわーとかぎゃーとか言いながら一目散に駆け出しました。
神社の敷地の外まで一気に走り出ると、「さぁちゃんが来てない!」とりゅうちゃんが叫びました。
二人が後ろを振り返ると、さぁちゃんがお賽銭箱の前にうずくまっているのが見えました。
「さぁちゃん!早く!帰ろう!」
「何してるんだよう!さぁちゃん、こっち来いよ!」
夜中だということも忘れて、二人は大きな声でさぁちゃんを呼びましたが、さぁちゃんはうずくまったまま動きません。
りゅうちゃんは泣いていたそうです。
彼は「自分も泣いていたかもしれないけど、わからない」と言っていました。
二人はまたお賽銭箱へ引き返し、さぁちゃんに走り寄りました。
さぁちゃんは絵葉書を片手につかんだまま、げえげえと何かを吐くような音を出していました。


324 :葉書 ◆.3caeW6ZtI :2008/10/10(金) 22:15:22 ID:7ThOerxMO
「さぁちゃん!行こうよ!」
りゅうちゃんは泣きながらさぁちゃんの腕を引っ張りましたが、
さぁちゃんは地面に膝をついて、げぇげぇ言っているだけで動きません。
「さぁちゃん、薬は?シューッてするやつ、どこ?」
彼はさぁちゃんが喘息の発作を起こしているのだと思い、さぁちゃんの顔をのぞきこんで尋ねました。
しかしさぁちゃんは何も言わず、
しまいに「うぐううう、うぐううう」と唸り、苦しげに地面を掻きむしり始めたのです。
「父ちゃん呼んでくる!」
りゅうちゃんはそう言って、神社を駆け出して行きました。
彼はそのとき、神社に取り残されることよりも、葉書よりも、ただ大人たちに怒られることが怖かったのだそうです。
彼はさぁちゃんの背中をさすりながら、「大丈夫?大丈夫?」と繰り返すしかできませんでした。

すると突然、さぁちゃんが彼の腕をぎゅっと掴みました。
そして彼の方に顔を近づけて、
「びょうおん」と言ったのだそうです。
正確には覚えていないけれど、そんな音だったようです。


325 :葉書 ◆.3caeW6ZtI :2008/10/10(金) 22:24:57 ID:7ThOerxMO
彼はそのときのさぁちゃんの顔が忘れられないと言います。
さぁちゃんは白目を剥いて、口の端からよだれをたらし、
反響しているような低い声で、その不思議な言葉を言ったのだそうです。
彼は叫ぶことさえ出来ずに、固まってしまいました。

「夜中にそんなことするからだ!泣くな馬鹿!」
大人の怒鳴り声がしてはっと我に帰ると、
大泣きしているりゅうちゃんを連れて、大人たちが敷地に入ってくるところでした。
さぁちゃんはまたうずくまって、げぇげぇ吐いていました。
さぁちゃんはりゅうちゃんのお父さんに抱えられて、
あとの二人は泣きながら大人たちについて帰ったそうです。

りゅうちゃんと彼は、次の日こっぴどく叱られたそうです。
説教が済んだ後、彼は「あの絵葉書は何?どうなったの?」と聞いても答えはなく、
さぁちゃんのことを聞いても、「病気でしばらくは遊べない」と言うだけで、詳しいことは聞けなかったのだそうです。


326 :葉書 ◆.3caeW6ZtI :2008/10/10(金) 22:35:49 ID:7ThOerxMO
その後、夏休みが終わって、彼は家に帰ることになりました。
見送りの日。
りゅうちゃんは「来年もまた来いよ」と言いましたが、実際には、それがりゅうちゃんと会った最後になりました。
彼は次の年から田舎に行くのをやめてしまったのだそうです。

「そんなに葉書が怖かったの?」と聞くと、彼は首を横に降りました。
彼はあの年、夏休みが終わる前に恐ろしいものを見たのだそうです。
真っ赤に塗り潰された葉書より、はるかに恐ろしいものを。

絵葉書事件の数日後、彼は一人でさぁちゃんの家を訪ねました。
彼は彼なりに、さぁちゃんが病気になったことを気に病んでいたのだそうです。
しかし、さぁちゃんの家には上げてもらえませんでした。
「さおりはもう、ひろくんたちとは遊ばないから」
玄関に出て来たさぁちゃんのお姉さんは、にべもなくそう告げました。
さぁちゃんにはかなり年の離れたお姉さんがいて、
そのお姉さんはいつも3人にとても優しかったので、彼はその冷たい対応にショックを受けたと言っていました。
おそらく、彼はそのお姉さんのことが好きだったのでしょう。
彼はそうは言いませんでしたが、そのお姉さんが彼の初恋だったのだと思います。


329 :葉書 ◆.3caeW6ZtI :2008/10/10(金) 22:52:15 ID:7ThOerxMO
面会を断られた彼は、さぁちゃんの家の裏庭に回りました。
さぁちゃんの家は大きな平屋で、窓からならさぁちゃんが気付いてくれると思ったのです。
裏庭にある大きな岩の陰からさぁちゃんの部屋を覗くと、さぁちゃんは一人で布団に座っていたそうです。
「さぁちゃん」と声をかけようとして、彼はそれを飲み込みました。
さぁちゃんが突如、自分の体を掻きむしり始めたからです。
パジャマをまくって腕をかきむしったり、ばりばりと激しく顔を掻いたり、掻いたところからは血が出ていたそうです。
彼はぎょっとして、ただ外からさぁちゃんを見ていました。
「きゃははははははははは きゃはははははははは」
さぁちゃんは突然身体を掻くのをやめて、けたたましく笑い出しました。
それは外にいてもはっきり聞こえるほど大きく、甲高い声でした。
彼は岩陰でがたがた震えていました。
さぁちゃんは座ったまま少し顔を上げて、口を歪めるようにして笑い続けています。

さぁちゃんの笑い声を背中に聞きながら、彼は転ぶように走って祖父の家へ逃げ帰りました。
そして、生まれて初めて早く夏休みが終わればいいと願い、
来年からはもう二度とこの土地にはこないと決めたのだそうです。

「目が、笑ってなかったんだよ」
彼はその話をしながら、ぎゅっと自分の片腕を握りしめました。
彼はいつのまにかびっしょりと汗をかいていて、それなのに顔は真っ青になっていました。


331 :葉書 ◆.3caeW6ZtI :2008/10/10(金) 23:05:27 ID:7ThOerxMO
それが彼の元に届いた葉書とどう関係があるのかと思われるでしょうか。
話が長くてすみませんが、もう少しだけ続きを聞いてください。

その後、さぁちゃんとはもちろん、りゅうちゃんとも疎遠になってしまったため、
あの肝試しの日の恐ろしい出来事も、さぁちゃんの家で見た不気味な光景も、
時が経つにつれて彼は忘れてしまったそうです。
忘れたというか、思い出さなくなったというべきでしょうか。

しかし、彼が大学入学を機に上京した年の秋、
彼の元に、突然りゅうちゃんから電話がかかって来たのだそうです。
『さぁちゃんがいなくなった』
りゅうちゃんはそう言いました。
さぁちゃんはあの後学校にも来なくなり、ずっと家にこもっていたそうです。
ただ、りゅうちゃんも地元の中学を卒業後、進学校に通うために県内の別の地域に下宿していたため、
中学以降のさぁちゃんのことはあまりよく知らないようでした。


332 :葉書 ◆.3caeW6ZtI :2008/10/10(金) 23:16:52 ID:7ThOerxMO
『急に電話なんかして悪いとは思ったんだけど、ほら、あんなこともあったしさぁ・・・。
 でも律子さんが、おまえに連絡しろって聞かないんだよ』
律子さんというのは、さぁちゃんのお姉さんです。
「なんで?俺ずっとさぁちゃんには会ってないよ」
『知ってる。でも律子さんが、さぁちゃんはひろくんのところに行ったかもしれないって』
「知らないよ!だって・・・」
彼は最後に見た不気味なさぁちゃんの様子を口走りそうになり、慌てて口をつぐみました。
『そうだよな。
 でも律子さんが、さおりはひろくんが好きだったし、あの後もひろくんはいつ来るの?って夏になるたびに言ってた。
 なんて言うから断れなくて』
握り締めた受話器が汗でぬるぬると滑りました。
さぁちゃんが来たらと思うと、恐ろしくて眠れなかったそうです。
しかし、さぁちゃん本人がやってくることはありませんでした。


335 :葉書 ◆.3caeW6ZtI :2008/10/10(金) 23:27:17 ID:7ThOerxMO
その電話から10日ほどして、彼が大学から帰ってくると、郵便受けに一通の葉書が届いていました。
それには子供の字で宛名と宛先、そして差出人として『○○さおりより』と書いてありました。
驚いて葉書を裏返すと、裏面は茶色く塗り潰されていました。
そして、塗り残した部分や色の薄いところから、見覚えのある絵が覗いていました。
そう、それは彼らがあの肝試しで使った、あの古い絵葉書だったのです。
彼は手にじっとり汗をかきながら、葉書を部屋に持ち帰りました。
気味が悪かったけど、捨てたらもっと悪いことが起こる気がしたから。

その後、毎年同じ時期になると、彼の元にはさぁちゃんからの葉書が届くのです。
いつも同じように、一面茶色に塗った不気味な葉書が。


337 :葉書 ◆.3caeW6ZtI :2008/10/10(金) 23:38:31 ID:7ThOerxMO
彼は私と一緒に暮らし始めたとき、これでさぁちゃんの葉書から開放されると思ったそうです。
そういえば、私が学生時代の恩師や友人に転居の連絡をしていても、
彼がそんな連絡をしているのは見たことがありませんでした。
彼はさぁちゃんがどこかで見ているかもしれないと思ったから、郵便受けに名前を出すのを拒んだのでしょう。
でも、さぁちゃんからの葉書は届いてしまったのです。
しっかりと部屋番号まで入った宛先で、幼い子供の字体のまま、さぁちゃんは彼に葉書を送り続けているのです。

さぁちゃんは行方不明のまま未だに見つかっていません。
最初の葉書は一体何だったのでしょう?
さぁちゃんは神社で何を見たのでしょう?
さぁちゃんがおかしくなったのはそのせいなんでしょうか?
びょうおんって一体何のことなんでしょう?
さぁちゃんはどうして彼の住所を知っているのでしょう?

分からないことだらけですが、たった一つだけわかることがあります。
それは、来年も再来年もその次も、彼の元にはさぁちゃんからの葉書が届き続けるだろうということです。

後日談もまだ少しありますが、長すぎるのでこれで終わります。
へたくそな長文を最後まで読んでくれた皆さん、本当にありがとうございました。

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[ 2010/11/18 ] ほんのりと怖い話 | この記事をツイートする | B!


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