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『ノック 上』


原著作者「怖い話投稿:ホラーテラー」「なつのさん」 2011/03/27 17:34

僕の住む町から、県境を跨いで車で四時間ほど走った先にある小さな街。
数年前、その街で身元の分からない一人の男の子が保護された。
調べてみると、男の子は街の人間ではなく、遠く何百キロも離れた他県で行方不明になっていた子供だった。
その子の証言によると、数日間、見知らぬ女の家に監禁されていたのだという。
実は同様の事件、――他県で行方不明となった子供がこの街で見つかるという事件――は、
過去にも四回程起こっており、警察は連続児童誘拐事件とみて捜査をしていた。
被害にあったのは全員、小学校低学年程の男児。
けれどもこの事件が特異だったのは、
発見された男児たちに特に目立った外傷も無く、何かしらの危害を加えられたわけでもない、ということだった。
親元に身代金が要求された様子もなかった。
誘拐された男の子たちが入れられた部屋は、外が見えないように窓の部分が塗り固められていたという。
といっても電灯はついており、食事は三食きちんと与えられ、部屋にはTVの他、本やマンガ、ゲーム等もあった。
誘拐犯の女は顔を隠すこともせず、連れてきた男児を本名では無く『●●』 と同じ名前で呼んだ。
そして子供たちに、自分と会話することを求めた。
そうして数日が経つと、女は眠っている子供を車に乗せ、街の外れで解放した。
警察は、被害にあった子供たちの証言から、街に住む一人の女性を容疑者に上げた。
彼女は街外れの古民家で一人暮らしをしていて、
彼女自身の子供も、誘拐事件が起こるよりも以前に、事故か事件に巻き込まれたのか、行方不明の届けが出されていた。
失踪した息子への想いが犯行に走らせた、と警察は考えた。
そして警察は彼女の家を訪れたのだが、その時すでに家に彼女の姿は無かった。
古民家の中からは、子供たちの監禁に使ったと思しき部屋が見つかり、
その部屋の中からは、『息子の元へ行きます』 という内容の遺書らしき紙と共に、
誘拐した子供たちへの謝罪の手紙が見つかった。
『●●』 とは、彼女の息子の愛称。
誘拐された子供たちは、『怖かったけど、女の人は優しかった』 と口をそろえて証言した。
自身も行方不明となった女性は、彼女の息子と共に未だに発見されていない。
その特異性から、この誘拐事件は一部のメディアでも取り上げられることになった。
そうして有名になった代価か、事件の舞台で今や廃屋となった古民家には、
夜な夜な親子の話声が聞こえるだとか、行方不明になったはずの子供の霊が出るといった、
真偽の定かではない噂話がまとわりつくことになる。

――――――
誰かが玄関のドアを叩いている。
閉められたカーテンの隙間を縫って、強い陽の光が室内に差し込んでいた。
壁にかけてある時計を見ると、短針はアラビア数字の11を僅かに通り過ぎている。
ベッドの中で目を覚ました僕は、両腕をつき上げて伸びをする。
来客か、それとも宅配便か何かだろうか。
コンコン、コンコンと人を急かすようなノックだ。
「……はーい!」と向こうに聞こえるよう大声で返事をして、僕は未だ名残惜しいベッドの海から抜けだした。
玄関まで行く途中で洗面台の鏡を覗きこみ、酷い寝癖が無いのを確認してから、ロックを外しドアを開けた。
玄関前は無人。
あれ、と思い左右を確認するも、各部屋のドアが並ぶアパート二階の通路には人の気配は無い。
おかしいな、と首をかしげる。寝ぼけてあるはずのない音でも聞いたのだろうか。
いずれにしても誰も居ないのだから、しょうがないか。
扉を閉めて、あふあふと欠伸などしつつ、二度寝をするため玄関に背を向けた。
コンコン。
背後で扉を叩く音がして僕は振り向く。
確かに誰かがノックをしている。
「はいはい」と返事をしつつ、再度扉を開けた。
けれどそこには誰もいない。
閑散とした通路を見回し、子供のイタズラかなと思う。
でも、僕の部屋はアパート二階のほぼ中心にあり、
ドアをノックして急いで逃げたとしても、端の階段につくまでに背中くらいは見えそうなものなのに。
下から石でも投げたのだろうかと地面を見やるも、そんな痕跡も無かった。
しばらく一体どうやったのだろうと思案してみて、止めた。分からないものは分からない。
そんなことより眠たくてしょうがない。もどって寝よう。僕は扉を閉めた。
……コンコン。
またノックの音だ。
どうやら、向こうはこちらの動きをどこかで監視しているらしい。
こういう手合いは相手の反応自体を楽しんでいるのだ。もうドアは開けてあげません。
僕は居間へと戻って夢の続きを見ることにした。

もぞもぞと、布団にもぐり込む。
コンコン……、コンコン……、コンコンコン。
しつこい。あのドアの向こうに居るのが誰であれ、相当しつこい。僕がドアを開けるまでそうしている気だろうか。
やれやれと思いながら、再度布団から這いだして、足音を立てないよう気配を殺して玄関まで向かった。
ドアの目の前まで来る。ノックの音は続いている。
その時、ようやくというか、ふと一つの疑問がわく。
これがピンポンダッシュなら、どうしてインターホンではなくてノックなのだろうか。
本当は、ここでいきなりドアを開けて逆に驚かしてやろうと思ったのだけれど、
その前にと僕はドアに顔を近づけ、そっと覗き穴から外の様子を覗いてみた。
魚眼レンズを通して見る、一点を中心にぐわりと湾曲した玄関先の光景。
そこに見えるのは、赤ペンキが塗られた手すりと、コンクリートの通路だけだった。誰の姿もない。
ドアを叩いて音を出すようなものは何も無い。
コンコン。
ノックの音。
外の様子を覗いている最中だった。その意味を理解した途端、首筋、うなじの辺りが粟立つのを感じた。
姿が見えないモノのノック。
残っていた眠気が綺麗に吹き飛ぶ。
どうやら、金属のドア一枚隔てた向こう側に、得体の知れないナニカが居るらしい。
その時、アパートの階段を上って来る足音が聞こえて身構える。足音はこちらへと向かってくる。
覗き穴の前を買い物袋を下げた人が通り過ぎた。
同じアパートに住む隣人だった。
反射的に僕はドアを開いて外に出ていた。そして部屋に入ろうとしていた隣人を呼びとめる。
「あの、すみません」
隣人とはあまり親しくは無く、会えば挨拶する程度だ。
確か僕より一つ二つ年上で、学部は違うけれど同じ大学に通っているくらいにしか知らない。
どうやら昼ご飯を買って来たらしい彼は、突然呼びとめられ、一体何事かと僕を見やった。
「はあ、え、何?」
「今さっき。僕の部屋のドアを、誰か叩いてませんでした?」
「いや、見てないな。俺は叩いてないよ?」
「ここまで上がって来る時、誰かとすれ違いました?」
「いや」
「ノックの音とか聞きました?」
「……いや」
僕は確信する。やはりこの通路には最初から誰も居なかったのだ。
「そうですか……。分かりました。ありがとうございます」
隣人はどうにも釈然としない表情をしていたけれど、それ以上関わり合いになることもないと思ったのか、
「じゃ」と言って自分の部屋に入って行った。
僕も部屋に戻る。

扉を閉めると、途端にノックの音が再開した。
とりあえず構うことはせず、台所で砂糖入りのホットミルクを作って、居間に戻り、ベッドの縁に腰かけてゆっくり飲んだ。
飲みながら現状を確認する。
もはや子供のイタズラである可能性は低いだろう。
だとすれば、所謂ラップ音と呼ばれる現象と同じ類だろうか。
今のところ被害は音だけ。それ以上害が無いなら、放っておいてもいいのかもしれない。
けれども、と思う。どうして『今日』 で、『僕の部屋のドアを叩く』 のだろうか。
大学生活のためこのアパートに越して来て大分日が経つけれど、
こんな現象は今日が初めてだし、この部屋が曰くつきだなんて話は聞いてない。
部屋が原因で無いとしたら、原因は僕自身にあるってことになる。
部屋のドアをしつこく何度も叩かれる原因を、どこかでつくったのだ。
一つだけ、微かな心当たりがあった。
ホットミルクを飲みほした後、僕は携帯を取り出して、友人のKに電話をかけた。
コール音が耳元で何度も繰り返される。
結局Kは電話に出なかった。たぶん寝ているんだろう。
Kは自他共に認めるオカルティストなので、色々と相談したかったのだけれど。
次に僕はもう一人、友人のSに電話をかけた。
数回のコールの後、『……何だよ』 とSの声が聞こえた。
「あ、Sー?僕だけど」
『ンなこた分かってる。要件を言え』
Sの声は少々不機嫌だ。どうやら彼も寝起きらしかった。
「じゃあ、簡潔に。あんさ。昨日肝試しに行った場所までさ、もう一度連れてって欲しいんだけど」

今からまだ数時間前の今日のことだ。
真夜中、僕とKとSの三人は、ここから大分遠い街の、女性と子供の霊が出ると噂の古民家へと、
肝試し兼オカルトツアーに繰り出していた。
それ自体はいつものことなのだけれど、街までが非常に遠かったため帰りが朝方になり、
そのせいで今日は三人とも起きるのがおそい。
古民家では何も見なかったし、何も起こらなかったのだけれど、
もしかしたら、いわゆる『お持ち帰り』 をしてしまったのかもしれない。

『昨日の?……理由は?』と訝しげなSの声。
僕はつい先ほど体験したことをかいつまんで説明する。
これがオカルティストのKならノって来るのだけれど、Sは超常現象と聞くと鼻で笑うタイプの人間なので、
何時『……くだらねぇ』と言われ、電話を切られるかとドキドキしながらの説明だった。
昨日だって、Sだけは肝試しでは無く、夜の長距離ドライブという感覚だったに違いない。
「……あ、もちろん、ヒマだったらで良いんだけど。駄目っていうなら、電車とバスで行くし」
幸い途中で切られもせず、全部話すことができた僕は、最後にそう付け加えた。
『電車とバスで行け』
電話が切れた。
だよねー、と思う。存外に遠いというのは昨日の経験から自明だし、断られるのは予想していた。
それに何しろ、どうしてもう一度そこへ行くのか、自分でもよく分かっていないのだ。
本当なら、何かに憑かれたようなのでお払いしてくださいと、お寺に行くか、
もしくは、幻聴が聞こえますと、病院に駆け込むのが正解なのだろう。
コンコン、といくらかの間を開けながら、未だにノックの音は続いている。
けれども、どうしても気になってしまう。
何故か、気味が悪いだの、鬱陶しい、煩わしいなどとは思わなかった。
むしろ、原因を突き止めたいといった好奇心、もしくは使命感が僕の中にあった。
立派なオカルティストであるK程ではないが、僕自身もそういう類の話には関心の強い方だ。
自分が住むアパートで起こったのなら、なおさら探究心は膨れ上がる。
それに、主な被害がノックの音だけ、というのが気になっていた。そのせいで危機感も薄いのだろうけれど。
ノックの音が聞こえるも、おもてに人はいない。その手の怪談は聞いたことがある。
夜中にノックの音がして、けれども、扉を開けても誰もいない。
聞き間違いかと思い、戻ろうと振り返ると背後に居た、というヤツだ。
その際のノックの意味とは、扉を開けさせることなのだろう。
そう言えば、前に読んだ小説だけれど、陰陽道に関する話で、
家とはそれ自体が家主を守る結界のようなもので、あやかしは中から招かれない限り入ることは難しい、
と書いてあったことをふと思い出す。
自らドアを開けることは、相手を受け入れるのと同意。
なのでその作中のあやかしは、あの手この手で中の者に扉を開けさせようとする。
けれども、この場合は事情が違う。僕は一度ドアを開けた。なのにノックの音だけが続いている。
嫌がらせでなければ、それはまるで、僕にこの部屋から出てきて欲しいと言っているようだった。
呼ばれている、と言えばいいのだろうか。
延々と扉を叩く目的が、自らが中に入るためでは無く、僕を外に連れ出すためだとしたら。
あの音の主は一体僕に何をさせたいのだろう。
考えた結果が、あの昨日訪れた古民家だった。
ここ数日の内に原因があるとすれば、あの場所しか思い当たるふしはない。
ベッドから立ち上がり、しかし自分って本当に行き当たりばったりで無計画な人間だなあ、などと内心思いながら、
出掛けるための身支度をする。

シャワーを浴びて出て来ると、携帯が一軒のメールを受信していた。
Sからだった。
『【件名】さっきの件について。

 【本文】昨日の分と合わせてガソリン代を出すなら、考えなくもない。』
全くSらしいというか。僕は少し笑って、『おいくら?』 と返信した。

「『ノック 中』」に続く

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