怖い話まとめブログ ロゴ
※旧怖い話まとめブログ跡地
このブログについて  お問い合わせ  オカルトblogランキング  怖い話まとめブログ管理人のツイッター  B!

※この記事はhttp://nazolog.com/blog-entry-4950.htmlに移転しました。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


次の記事:『初雪の山は登ってはいけない』
前の記事:『トランプ 後編』1/2
[ --/--/-- ] スポンサー広告 | この記事をツイートする | B!

『トランプ 後編』2/2

師匠シリーズ。
「『トランプ 後編』1/2」の続き
【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ19【友人・知人】

921 :トランプ後編9:2012/02/26(日) 14:30:45.10 ID:H7Gs8mUq0
きた。
やばいって。ほんとに。
僕も泣きたくなったが、胃の辺りを押さえたマスターにそんな顔をされると受け取らないわけにもいかない。
深呼吸をして、受話器を耳に当てる。
『……もしもし?』
女の子の声だ。今度は最初から少し抑揚がおかしい。いつ豹変するか分からない、妖しい揺らぎを潜めているような声。
「はい」
『浦井さんですか』
「……はい」
『次のカードはなんですか?』
師匠はまだか。
わかるわけがない。
マスターを見るが、顔の前で手を高速に振っている。
ひかりさんはなぜか口笛を吹きながら箒を手にして床を掃き始めた。
『もしもし?もしもし?もしもし……』
じわじわと声色が変わっていく。それと同時にゾクゾクするような悪寒が込み上げて来る。
なにか言わないといけない。
なにを。


922 :トランプ後編10:2012/02/26(日) 14:33:47.65 ID:H7Gs8mUq0
『もしもし……どうして、はやく、もしもし……答えてくれない……はやくこたえ』
風船だ。
目に見えない風船が膨らんでいくイメージ。空気が歪み、僕は息が詰まるような圧迫感を覚えた。
『は……や……く……』
店の中になにかが弾ける。
そう感じた瞬間だった。
タイヤが乱暴にアスファルトを噛む音がした。
そして間髪入れずに店のドアが開き、ツバつきの帽子を目深に被った師匠が飛び込んでくる。
「貸せ」
駆け寄ってきた師匠に受話器を奪われる。
「ご指名の浦井だ」
師匠が電話に向かってそう言い放つ。
「ああん?さっきのも浦井だよ。弟だ、弟。あいつはザコだ。わたしなら透視でも予知でもなんでもしてやるよ。
 それよりお前、どこにいるんだ」
最初から喧嘩腰だ。


923 :トランプ後編11:2012/02/26(日) 14:35:28.48 ID:H7Gs8mUq0
黒電話からかなりの音量で不気味な声が漏れ出てくる。
『次の……カードは……』
店の照明が揺らいだ。
ひかりさんが箒を持ったまま気味悪そうに天井を見上げる。
「訊いてばっかじゃないか。先にこっちの質問に答えろよ。どこにいるんだよ」
『次のォォォォ……カードォォォォォォォ……』
おんおんと恐ろしい音が響く。
マスターが青い顔をして耳を塞ぐ。僕もただならない空気に足が竦む。
息を飲んで師匠を見つめていると、空いている左手の指で、左の頬の下あたりをポリポリと掻き始めた。
そこには古傷があり、興奮すると赤く浮き出て来て、痒くなるのだそうだ。
「上等だよ」
指の動きを止め、師匠はそう呟いた。
それを見つめている僕のうなじに、チリチリと静電気のようなものが走る。
師匠の目が爛々と輝き、なにか得体の知れない力がその身体から蒸気のように吹き出てくるような錯覚をおぼえ、
思わず僕は目を擦る。
「クラブの10だ」
受話器に、そんな言葉を落とす。


924 :トランプ後編12:2012/02/26(日) 14:47:02.35 ID:H7Gs8mUq0
電話の向こうから、空気の抜けた風船のようになにかが萎むような気配がした。
しかし師匠は追い討ちを掛けるように続ける。
「切るな。最後までやってやる。続けろ」
『  』
黒電話がなにか言った。しかし聞き取れなかった。
「スペードの10」
師匠が間髪いれずにそう答える。気のせいか、猫科の動物のように帽子からはみ出した毛が逆立っているように見える。
「ダイヤの7、クラブの7」
「ハートのクイーン、スペードのクイーン」
「ハートの2、ダイヤの2」
…………
まったく言いよどむことなくカードを答え続ける。僕らは唖然としてそれを見ているしかなかった。
ロジックなどではない。この世のものではない怪物が二頭、戦っているような気がした。
電話の向こうのトランプのカードなど、僕らには何一つ見えなかったのだから。


925 :トランプ後編13:2012/02/26(日) 14:48:39.53 ID:H7Gs8mUq0
「クラブのクイーン、スペードの6」
「ダイヤの4、ダイヤのキング、クラブの5……」
そうして最後に師匠はふっ、と息をついて優しい声で言った。
「残りは消去法でも分かるな。スペードのジャックだ」
そうして周囲で恐る恐る見守っていた僕らに顔を向け、ウインクをしてみせる。
黒電話からはもうなんの気配も感じない。
ただどことも知れない場所とは、まだ繋がってはいるようだった。
「こんな遊びでいいならいつでもやってあげるよ。
 とりあえず、電話するならこの番号じゃなく、今から言う方に掛けな。そこならいつもわたしがいるから」
そう言って師匠は自分の家の電話番号を口にした。
そんなこと教えて大丈夫なのか、と思わず手が伸びたが、制止することもできず、その手は宙を掻くだけだった。

「だからな、仕事だって言ったろ」
師匠はアイスミルクティーを注文して、喫茶ボストンのカウンター席に座りなおした。
電話を切った後、もう女の子からは掛かってこなかった。
落ち着いたところで、いったいなにが起こっていたのか説明をする気になったらしい。


926 :トランプ後編13:2012/02/26(日) 14:53:24.86 ID:H7Gs8mUq0
「買ったばかりの分譲マンションの部屋に、幽霊が出るからなんとかしてくれって依頼があったんだよ。
 除霊屋じゃないんだから、追っ払えるか分かりませんよって言ったんだけど、
 なんでもいいからとにかく来てくれって言うからさ、行ったわけよ」
師匠が出向くと、そこには女の子の霊がいたそうだ。
出来たばかりのマンションで、前の住人が自殺した、といったような見えない瑕疵もない。
地縛霊ではなく、浮遊霊の一種がたまたまそこに居ついているんだろうと師匠は当たりをつけた。
その女の子の霊は、部屋の隅でトランプ占いのようなことをしていたのだそうだ。
ただそれだけなら気持ち悪いにせよ害はないのだが、
その占いの結果が悪かったらパニックのようになって、部屋にポルターガイスト現象のようなことが起こるのだという。
家具が揺れたり、皿が飛んだり、テレビがついたり消えたりするような。
とりあえず師匠は、占いからなにか別のことに興味を向けようと思って、手品をして見せてあげようとしたのだが、
いかんせんそのトランプに触ることができない。物質的なものではなかったのだそうだ。
そこで、くだんの電話をつかって選んだカードを当てる、透視マジックを披露することにしたのだ。
そこでマジックの助手として白羽の矢があたったのがこの僕で、
喫茶ボストンはそのとばっちりを受けた格好になる。いい迷惑だ。
女の子がカードを選んだところで、
今から掛ける所に浦井さんという透視能力者がいるから、そのカードのことを訊いてごらん、
と言ってプッシュホンを押し、受話器をその子の前に掲げた、という次第だったそうだ。


927 :トランプ後編15:2012/02/26(日) 14:56:13.94 ID:H7Gs8mUq0
見事僕がジョーカーを当て、女の子は不思議がって喜んだ。
そしてさあこれからどうしようかと考えていると、師匠の目の前でその子は消えたのだそうだ。
なんだ、これで解決か。
あっさりしてるなと拍子抜けして、ボストンに電話してみたところであの騒ぎが起きた、という流れだ。
「なんで二回目のジョーカーが分かったんですか」
僕がそう訊くと、師匠はアイスミルクティーにガムシロップを流し込みながら答える。
「モンテカルロだったんだよ」
「え?なんですって?」
「だから、その女の子のしていた占いが。
 見たことないか?こう、左から右へ五枚のカードを並べて、その下にまた左から右へって風に縦長に並べてって、
 タテヨコ斜めで同じ数字があったら、ペアにしてその場から排除できるんだ。
 それで空いたスペースを、左上に左上にカードを詰めていって、また一つずつペアを作って消していく。
 綺麗に全部消えるか、あるいは最後に残ったカードで占いをするっていうゲームだ」
そう言われるとやったことがある気がする。モンテカルロ、なんていう気取った名前だったのか。
「で、わたしが透視マジックをやるって言うと、
 その子は占いを終えたばかりのトランプの山を整えて、そのまま裏返しにしたんだ。
 それでカットもせずに、そのまま一番上のカードを選んだ」
「それがジョーカーだったんですか」
「そう。普通モンテカルロは、ジョーカーを除いた52枚でやるんだけど、色々ハウスルールも多いからな。
 でもそのジョーカーが混ざってる可能性を失念してた。わたしのミスだ。でも結果的にそれが功を奏したんだけど」


929 :トランプ後編15:2012/02/26(日) 15:03:08.57 ID:H7Gs8mUq0
「どういうことですか」
「二回目だよ。
 わたしに見えないどこか知らない場所で、その子が透視ゲームの続きをしようとした時、
 また『浦井さんはいますか?』って訊いてきたろ。
 わたしが名前を指示したわけじゃないから、暗号表も使えないし、実質的にノーヒントだ。
 でも『次のカードはなんですか?』っていう、その訊き方が引っかかってな。
 最初に裏返しにした、山の一番上を単純に選んだその子が、そういう訊き方をするってことは、
 もしかしたら、そのまま次の二番目のカードを選んだんじゃないかって思ったんだよ。
 その場合、裏返す前は山の一番下にあったわけだから、
 ペアになり排除されたカード、つまりジョーカーのペアはジョーカーだってわけ。
 しかし、最初のペアがジョーカーで良かったな。
 例えば一枚目がスペードのエースとかだと、
 ペアになった二枚目はハートなのか、クラブなのか、ダイヤなのか、
 という三択を迫られるところだ……いや、まてよ」
そこで師匠はなにかに気づいたように眉を寄せた。
そして「あ、そうか」と一人で勝手に頷く。
「最初のペアが二枚しかなくて、でもそのせいでペアになりにくいジョーカーだったのはツイてたな、
 と思ってたけど、違ったんだ。
 あの子はモンテカルロのルールどおり、ジョーカーは最初に取り除いたんだ。
 そしてゲーム開始後にできた最初のペアを、その取り除いておいたジョーカーの上に置いて、
 そのまま排除用の山にしただけだったんだ!」
気づいてなかった。あぶねえ。そう呟いて、額をわざとらしく拭うふりをする。
「でもその後はどうして分かったんです」
「山の上から順番にカードを選んでいく、ってことは想像ついたけど、
 占いしてるところを最初からずっと見てたわけじゃないし、
 どのペアがどの順番で取り除かれたか、なんて分かるわけない」
「じゃあ、どうして答えられたんですか」
まさか当てずっぽうではあるまい。偶然すべてが当たる可能性なんて天文学的な確率だ。
たとえ、一枚当たったら二枚目はスーツ違いの同じ数字だと当たりがついたとしても。
まして最後は、現にペアにならなかったバラバラのカードばかりだったじゃないか。


930 :トランプ後編17:2012/02/26(日) 15:04:15.00 ID:H7Gs8mUq0
「知らん」
あっさりと言った。
ストローを銜える師匠を唖然として見つめる。
「そんなわけないでしょう」と食い下がると、めんどくさそうに口を開いた。
「あのな。実体がなく、言葉だけでそこに現れている霊なら、その言葉が霊そのものだ。
 言葉の奥に、言葉にしない隠れた秘密があったとしても、すべては示されている。
 声色だか、音の大小だか、タイミング……そういうところに分解され、分からなくされているんだろう。
 でも見えるものは見えるんだ。これは、精度と能力の問題だ」
ホントの物質的透視だったら、わたしにも出来ない。そう言って師匠は僕の頭を小突いた。
そして追い討ちを掛けるように続ける。
「お前、好き好んでこっちの世界に首を突っ込んでるがな。
 いつか、見えなきゃ死ぬ、って場面に遭遇したら、どうするんだ」
冷たく細められた瞳が僕を見ている。
師匠のその言葉は、小突いた握りこぶしよりもはるかに強く、まるで鋼鉄のハンマーのように僕の頭に打ち下ろされ、
チカチカとしたどこか電子的な火花が小さな喫茶店の中を埋め尽くし、
それがいつまでも、いつまでも止むことはなかった。

(完)

次の記事:『初雪の山は登ってはいけない』
前の記事:『トランプ 後編』1/2
[ 2012/02/28 ] 師匠シリーズ | この記事をツイートする | B!


copyright © 2025 怖い話まとめブログ all rights reserved.
/ プライバシーポリシー