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『トランプ 後編』1/2

師匠シリーズ。
『トランプ 前編』の続き
【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ19【友人・知人】

912 :トランプ後編1:2012/02/26(日) 14:07:45.01 ID:H7Gs8mUq0
『浦井さんはいますか』
ゾクッとした。
あの女の子の声。
思わず「はい」と返事をしてしまった。
『次のカードはなんですか?』
次のカード?透視ゲームがまだ続いているのか。
しかし様子がおかしい。
『おい、なんだ。どうした』
師匠の声がする。
「いや、女の子が」
僕がそう呟くと、電話口から緊迫した声が響いてきた。
『嘘だろ!もういないぞ』
え?二人で一緒に一つの受話器に顔を寄せ合って喋っているのではないのか?
『浦井さん?』
女の子が語尾を上げて問いかけてくる。


913 :トランプ後編2:2012/02/26(日) 14:09:46.33 ID:H7Gs8mUq0
ちょっと、ちょっと待ってくれ。どういうことなんだ。
『今、あの子の声が聞こえているのか』と師匠。
「……はい」
慎重にそう答えると、別々の返事が返ってきた。
『よかった。次のカードはなんですか』
『こっちには聞こえないぞ。おい。お前の方の声は、わたしだけに聞こえてるのか?』
「いえ……」
『え?なんですか。良く聞こえない』
『まずいぞ。とりあえずお前は喋るな』
なんだか分からないが、ただ事ではないことが起きているようだ。ぞわぞわと背筋が冷たくなってくる。
マスターとひかりさんも、眉をひそめてこちらを伺っている。
『ここからはわたしの指示通り動け。説明は後でする。
 まず、その女の子は人間じゃない。今までわたしの前にいたが、もういない。なのに電話では繋がっている。
 ちょっと試すぞ。いったんこっちの電話を切る』
ガチャン、という音がして師匠の声が消えた。
しかしまだ電話は繋がっている。
『もしもし?浦井さん?』
女の子の声が、まだ聞こえていた。


915 :トランプ後編3:2012/02/26(日) 14:13:50.21 ID:H7Gs8mUq0
姿の見えない、声だけの存在。人間じゃないだって?
僕は思わず閑散とした喫茶店の中を見回す。しかし僕たち三人以外、誰の影も見えなかった。
ふいに電話のベルの音が高らかに鳴り響き、びっくりして瞬間、背筋が伸びた。
店内に設置されていたピンク電話だ。それがどこかからの着信を告げている。
いったんこっちの電話を切る、という師匠の言葉を思い出し、
今手に持ったままの黒電話の受話器を見つめると、自然に答えが出る。
「ひかりさん、あれ、取って」
黒電話を移動させながら、ジェスチャーで『ピンク電話の受話器を僕の方へ持ってきてほしい』と訴える。
それぞれの電話機のコードの限界まで引っ張り、なんとか僕は両方を手に持つことができた。
「もしもし?」
ピンク電話の方の受話器に口を寄せて話しかける。
『わたしだ。どうだ、まだあっちは繋がってるか』
師匠だった。
いったん切ったものの、僕の方が黒電話の受話器を上げている以上、掛け直しても通話中になってしまい、
繋がらないのだ。
だから師匠は、店にもう一つあるピンク電話の方へ掛けてきたのだった。
「よくこんな電話の番号知ってましたね」
『備えあればなんとやらだ。それよりどうなんだ』
「繋がってます。次のカードはなんですか、と訊かれています」


916 :トランプ後編4:2012/02/26(日) 14:16:12.85 ID:H7Gs8mUq0
『繋がってるか。まずいな。物理的にどうとかいう状態じゃないな。あの子がどこにいるか分からない。
 わたしもすぐにそっちに向かうから、それまで間を持たせろ。いいな。その子の電話を一方的に切るんじゃないぞ』
「ええ?今どこなんですか」
『車だから、十分もかからない。こっちはもう切るぞ』
その時、耳を離していた黒電話の方の受話器からボソボソという声が漏れ始め、それがだんだんと大きくなってきた。
『ねえ、どうして答えてくれないの』
女の子の声。だが、聞いただけで寒気のするような声色だった。
さっきまでとどこか違う。声の要素を分解し、再構築したようなどこか人工的な響き。
しかしそれが、耳にまとわりつくように喫茶店の中をどろどろと流れた。
『どうした』と師匠に訊かれ、息を飲みながらも「声が、変わりました」とようやく答える。
「答えろと、言われています」
女の子はまた“浦井さん”とこちらを呼んでいた。ということは、またカードはジョーカーなのか。
『うかつに答えるな。間違えたら何が起こるか分からない。
 今度の名前の指示はわたしがしたわけじゃない。
 その子は最初に教えた“浦井”という透視能力者に、また訊いてきただけだ。
 だから何のカードを引いたのかは分からない。
 いや、まて。その子はなんと訊いてきた?もう一度言ってくれ』
「浦井さんはいますか?次のカードはなんですか?と」
電話口で少し間があった。
『次のカード……』
師匠がそう呟いたのが聞こえた。
そして次の瞬間、黒電話から血の凍るような声が鳴り響いた。
『はやく、答えろろろろろろろろろろろろろろろろろr……』


917 :トランプ後編5:2012/02/26(日) 14:19:09.14 ID:H7Gs8mUq0
鳥肌が立った。洒落になってない。
カタカタとカウンターの奥の酒瓶が音を立てている。ガラスケースの中の食器も。
目に見えない振動が発生しているのか。
パニックになって、思わず黒電話の受話器をフックに戻しそうになる。
すんでのところで思いとどまり、ピンク電話の受話器に顔を押し付ける。
「師匠!」
『落ち着け。今のは電話越しにこっちにも聞こえた。いいか。一回だ。あと一回だけ当てる』
「え?なんですか」
『いま訊かれているカードだ。もうこれでこっちは電話を切る。
 すぐに向かうから、もしまた掛ってきてもなんとか引き延ばせ。
 いいな。その次のカードはわたしにも分からない。勝手に答えるなよ』
「もう間に合いませんよ」
僕の悲痛な叫びに、師匠が答えた。
『あと一回は当てる、って言ったろ。信じろ』
「じゃあそのカードはなんですか」
『ジョーカー』
一言そう告げて電話は切られた。


918 :トランプ後編6:2012/02/26(日) 14:21:07.44 ID:H7Gs8mUq0
だから、浦井がジョーカーに対応してたのは最初だけでしょ!
そう言い返そうとしたが、また黒電話の方から異様な気配が膨張していくのを全身で感じ、震えあがって、
「もう、ちくしょう」と口の中で毒づいたあと、僕は受話器を握りなおした。
「ジョーカーだ。選んだカードはジョーカー」
そう答えた瞬間、ふ、と気配が消えた。
喫茶店の中に、喫茶店が戻ってきたような感じ。
『あたり』
小さな声がそう聞こえた。
それで電話が切れた。ツーツーという音だけが耳に入り込んでくる。
僕は放心して、そのままの格好で間の抜けた顔を晒していた。
「あの、大丈夫?」
ひかりさんの声に反応して、「え、ああ、はい」と言いながら黒電話の受話器をフックに戻す。
チン、という音がした。
静寂が戻ってくる。店の表を通る人の笑い声がドア越しにかすかに聞えてきた。


919 :トランプ後編7:2012/02/26(日) 14:24:24.32 ID:H7Gs8mUq0
「なに今の?」とマスターが怯えた表情で訊いてくる。
喫茶ボストンのマスターは小心者で、
たまに加奈子さんが持ち込んでくるお化け絡みのトラブルに巻き込まれては、持病の胃痛を悪化させているのだそうだ。
しかし小川調査事務所の面々は数少ない店の常連だ。事務所の来客時にもコーヒーや紅茶の出前のオーダーがある。
いわば上得意だ。そんな目に遭っても出入り禁止にもできず、胃薬を飲む回数ばかり増えているらしい。
「さあ、分かりません」
そう答えたが、僕にもさっぱり分からないのだ。嘘ではない。
師匠は『またあの電話が掛かってくるかも知れない』と言っていた。
それを思うと店から逃げ出したくなったが、
この小動物のように怯えているマスターと、勝手に巻き込んでしまったひかりさんを置いて逃げるわけにもいかない。
「すぐ加奈子さんが来るんで」と、僕はマスターにお願いして店を一度閉めてもらうことにした。
ひかりさんが表の営業中と書かれた看板を裏返しに行く。
どうせ今日は開店休業状態だ。
そんなところにふらりとやってきた不幸な客を、こんなわけのわからないことに巻き込むわけにもいくまい。
十分もかからない、と言っていたな。
店の時計を見上げる。
まだか。
今また電話が掛かってきたら、と思うと気が気ではない。
あれはやばい。直感に頼るまでもなく、それが分かる。


920 :トランプ後編8:2012/02/26(日) 14:28:09.73 ID:H7Gs8mUq0
ジリリリリリリリリリリリリ……
心臓が縮み上がった。
一瞬、師匠からの電話かと思ったが、ピンク電話の方ではない。黒電話の方が鳴っている。
女の子が知っている方の番号だ。
時計を見る。十分経っている。しかしまだ師匠は到着していない。
まずい。どうする。
冷や汗が流れる。
このまま取らなかったらどうなる?
それでやりすごせるか?
そんな言い訳めいたことを考えながら僕が動かないでいるあいだも、電話のベルは鳴り続ける。
「店あてかも知れない」とマスターが動く。
とっさに「あ、待って」と言ったが、マスターの職業倫理がそれを許さなかった。
「はい。喫茶ボストン」
いつもの声でそう言うと、マスターはすぐに泣きそうな顔に変わった。
そして『ごめん』とばかり手刀を切りながら、もう片方の手で僕に受話器を差し出す。
「浦井さんに、って」

「『トランプ 後編』2/2」に続く

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