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『未 本編1』3/4

師匠シリーズ。
「『未 本編1』2/4」の続き
【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ19【友人・知人】

352 :未 本編1 ◆oJUBn2VTGE :2012/01/02(月) 23:13:25.59 ID:93PkLSJW0
女将は師匠のことをどう思っているだろう。
テレビで見るような霊能者のように、『この霊はこういうことを訴えているのです』などとすぐさま断言し、
そのうえ自ら憑依現象など起こしてみせるようなことを期待しているのだろうか。
「神主の服装は、どうです」
「どう、と言いますと?」
「今の若宮神社の宮司のものと同じですか」
「えっ。それは」
女将は驚いた表情を浮かべた。
「同じ、だったかと思いますが」
「自信はないんですね。では、若宮神社の宮司は霊を見ていますか」
「見て、いないようです」
「服のことは宮司から訊かれませんでしたか」
「はい」
師匠は舌打ちをした。
「大事な要素です。いつの時代の霊か分かるかも知れないのに……。宮司は霊についてなんと言っていますか」
「どうしてこういうことになるのか分からない、と。とても困惑しています。それはこちらもですが……。
 とにかく、若宮神社にも私どもにも、まったく心当たりがないんです」
「よそ者、という点に関してはどうです。代々の氏子ではないわけでしょう」
「そんな。
 町の外から移り住んできた家は他にもありますし、私どももこちらに来てからは、初代より若宮神社の氏子です。
 旅館組合からは継子(ままこ)にされても、若宮さまはわけ隔てなく接してくださいましたから、
 お互いにうらみつらみもございません。
 私は当代の宮司の章一さんとは、同じ小学校の先輩後輩で、年下の私を良く気にかけてくださいますし、
 娘の楓は、章一さんの次男の和雄さんと幼馴染で、とても仲が良いのですから」
若宮神社の宮司は石坂という名前らしい。
勘介さんがムッスリした顔のまま頷いたところをみると、そのあたりの事情はそのとおりのようだ。
「では、いったい何のために、霊はさまよい出てきているのでしょう」
「私どもには分かりかねます」
『それはそちらの仕事だ』という表情で女将は師匠の目を見つめ返した。
師匠は溜め息をついてその視線を避けると、少し口調を変えて言った。
「写真はどうです」


353 :未 本編1 ◆oJUBn2VTGE :2012/01/02(月) 23:15:22.54 ID:93PkLSJW0
「え?」
「写真です。心霊写真。その神主の霊の写真は撮れていませんか」
「写真は……聞いたことがございません。写真に撮ったというような話はなかったかと思います」
「そうですか」
師匠は残念そうに自分の額を叩いた。
「いや、しかし、古い霊だと基本的に写真には写らないので、正体を知る上では少しヒントになるかも知れない。
 わたしの経験上、写真文化の成立前の霊は、心霊写真として撮れないことが多いんです。
 写真という、己を写しとりうる機械の存在を知らずに死んだ霊らならば。
 つまり、江戸時代後期以前の霊ならば……」
はじめてそれらしいことを言った師匠に、女将は困ったような表情を浮かべた。
信じて良いものか迷っているような顔だった。
「まあいいでしょう。
 あとは、そうですね、この旅館の裏手は山になっていますが、
 そちらにはもしかして、その若宮神社の分社がありませんか?あるいは昔あったとか」
「いえ、ありません」
即答だった。
「今でも良く気晴らしに登ることがございますが、そういうものはありません。
 登り口が表から少し回りこんだところにあるんですが、そちらから山に入れます。
 気になるようでしたら、そちらからどうぞ。とっても見晴らしが良いところがあるんですよ」
「それはぜひ。
 では、まず旅館の中を見せてもらいましょうか。
 恐らくですが、夜までなにも起こらないでしょう。それまで、できるだけ情報収集をしたい」
師匠は立ち上がった。
「運が良ければ今夜中に、相手の正体が分かるでしょう。正体が分かれば対処のしようがあります」
応接室を出るとき、先に立った僕がドアを開けると、すぐ前にいた女性にぶつかりそうになった。
「うわ」という声が出てしまった。
相手も驚いたようだったが、ばつの悪そうな顔をして後ろの女将の方を見て首を竦めている。
「楓、なにしてるの」
「あの、いや、ちょっと」
楓というと、さっきの話にも出た女将の娘のはずだ。僕と同い年くらいだろうか。


354 :未 本編1 ◆oJUBn2VTGE :2012/01/02(月) 23:19:59.14 ID:93PkLSJW0
髪をポニーテールにして、タートルネックの黒いセーターにデニムのパンツといういでたちからは、
活発そうな印象を受ける。
どうやら盗み聞きをしていたらしい。
悩みの種だった幽霊騒動のさなか、解決のために霊能力者が雇われたとなると、
若い彼女が興味津々となるのも無理はない。
「楓、後でこの方々について裏山をご案内しなさい」
溜め息をつきながらの女将の言葉に、楓のすぐ後ろにいた仲居姿の女性が身を乗り出す。
「あ、私が案内しましょうか」
広子さんだ。いっしょに盗み聞きしていたのか。
「おまえは夕食の仕込みがあるだろうが」
勘介さんがボソリと言って自分の娘の頭を小突いた。結構痛そうだった。

それから師匠は小一時間旅館の中を調べて回った。
特に幽霊が出たという場所では、いつ、誰が、どんな風に見たのかをこと細かく聞き取った。
僕はそれにくっついて回り、書記係となって聞いた内容をすべて大学ノートにメモしていった。
師匠はその間、聞いた内容に関する評価をほとんど下さなかった。ただ淡々と事実を収集していくだけだ。
それらの目撃談は旅館中に及んでいた。玄関や、廊下、客室や宴会場、そして中庭や温泉。
その節操のなさからは、場所に関する拘りをまったく感じなかった。
ただ、その頻度からは、この『とかの』という温泉旅館そのものに対する異常な執念、
あるいは執着のようなものを感じられた。
神主姿の霊は、人に危害を加えようとするようなそぶりこそ見せていないようだが、
目撃者は皆、なんらかの怨念じみた恐ろしさを感じて怯えている。
廊下の壁から抜け出るように突然現れたかと思うと、反対の壁の中へ消えて行ったり、
夜中に宿泊客がふと目を覚ますと、布団の周囲を数人の神主姿の霊がゆっくりと歩いているのが見えたり。
現れ方も様々だった。
「数人?」
宿泊客からそんな話を聞かされたという仲居の一人に、もう一度確認する。
「ええ。二,三人か、三,四人か。うろうろ歩いていたそうです」


355 :未 本編1 ◆oJUBn2VTGE :2012/01/02(月) 23:21:52.22 ID:93PkLSJW0
「顔は?もしかして全員同じではなかったですか」
訊かれて四十年配の仲居は首を傾げる。
「そんなことはおっしゃってませんでしたね。
 でも、私も見たことがありますけど、顔はあまりよく見えないんですよ」
顔のあたりは妙にぼやけていて、ただ蒼白い顔をしているということだけが分かるのだという。
「ありがとうございます」

師匠はおおよそ必要と思われる情報を集め終わったのか、
あるいはこれ以上聞いても有益な情報は得られないと判断したのか、調査を一旦打ち切った。
時計を見ると午後三時を回っていた。
「では裏山に登ってみます」
師匠がそう告げると、女将は娘を呼んだ。
「楓、ご案内しなさい」
「はあい」
セーターの上からジャンパーを羽織った格好で現れた楓は、元気に返事をすると右手を高らかと挙げてみせた。
「あ、では僕も」
その後ろから旅館の半被を脱ぎながら大柄な青年が現れて、はにかみながらそう言った。
さっき玄関で枯葉を掃いていた人だ。
この若者が、女将の話に出てきた若宮神社の宮司の次男らしい。
その掃除している姿を『お坊ちゃん』と呆れたように評した広子さんの態度が気になって、
聞き込みの最中にもう一度広子さんを捕まえ、彼が何者か訊ねてみたのだ。
彼は石坂和雄といって、県内の大学の三回生。
キャンパスの近くに下宿しているのだが、冬休みになって実家に帰省しているらしい。
そんなたまの里帰りなら、実家で足を伸ばしてゆっくりすればいいのにと思うが、
広子さん曰く、この旅館の一人娘の楓にホの字らしいのだ。
そのために、『ヒマだからなにか手伝いますよ』と言って、足繁く『とかの』に通ってきては、
掃除に荷物運びにと汗をかいているらしい。
そして夕方遅くなると、一緒に晩御飯でも食べていきなさいという話になり、
いとしの楓ちゃんといられる時間をがっちりキープする、という具合だ。
もっともそれは今に始まったことではなく、狭い田舎のコミュニティの中で昔から幼馴染として仲良くしてきたらしい。


356 :未 本編1 ◆oJUBn2VTGE :2012/01/02(月) 23:25:38.44 ID:93PkLSJW0
和雄の父親である現宮司の章一さんは、女将の千代子さんと幼馴染であるし、
章一さんの奥さんの昌子さんは、千代子さんと同じ華道の先生についていた縁で仲が良いらしい。
いわば家族ぐるみの付き合いだ。
そして二つ年下の楓が今年の春に高校を卒業し、地元の短大に通い始めてから和雄のアプローチが積極的になってきた。
将を射んと欲すれば、まず馬から射よ。
とばかりに旅館に入り込んでテキパキと仕事をしてみせる和雄を、女将は上手く操っているようだ。
女将は十年ほど前に夫と死に別れ、それ以来女手一つで楓さんを育て、
親から受け継いだ旅館を切り盛りしてきたのだそうだ。
いずれ楓に婿を取って跡を継いでもらわないといけない。
そこに若宮神社の次男坊であり幼馴染の和雄という、うってつけの人物がいるのだ。これを逃す手はない。
楓自身はまだ短大に入ったばかりで遊びたいざかり。
どうやら和雄のことは憎からず思っているらしいのだが、まだはっきりとは態度で示さず、
バイトにサークルにと忙しい日々を送っている。
そんな二人の間を巧妙に取り持って、けっして下手に出ることなく、
和雄の方から積極的にこの旅館へ通わせてあれこれ手伝わせているのが、女将の千代子さんというわけだ。
聞くと、和雄は普段の土日にも良く顔を出しているらしい。まめなことだ。
「じゃあ、行ってきます」
楓が玄関先で振り返りながら声を張り上げる。
「和雄さん、お願いね」
「はい」
女将は和雄の方へだけ声をかけた。そして師匠と僕に会釈して旅館の中へ戻って行った。
「こっちでーす」
楓が先導して敷地の外へ出る。すぐ裏の山なので旅館の建物を回り込んで行くのかと思っていた。
「この先を回ったとこから入山口があるんですよ」
早足で一人先へ先へ進む楓に苦笑しながら和雄が説明する。
旅館のそばを流れる川沿いに少し歩くと、山側に石段のようなものが見えてきた。
「ここから登りまーす」
楓は苔むした石段を二段飛ばしで登っていき、そのたびにポニーテールの先がピョコピョコと揺れた。
元気だし、動きが妙に可愛らしい。

「『未 本編1』4/4」に続く

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