怖い話まとめブログ ロゴ
※旧怖い話まとめブログ跡地
このブログについて  お問い合わせ  オカルトblogランキング  怖い話まとめブログ管理人のツイッター  B!

※この記事はhttp://nazolog.com/blog-entry-4706.htmlに移転しました。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


次の記事:『M.C.D.』
前の記事:『未 本編1』2/4
[ --/--/-- ] スポンサー広告 | この記事をツイートする | B!

『未 本編1』4/4

師匠シリーズ。
「『未 本編1』3/4」の続き
【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ19【友人・知人】

357 :未 本編1 ◆oJUBn2VTGE :2012/01/02(月) 23:27:51.55 ID:93PkLSJW0
和雄でなくとも、こういう子が幼馴染なら悪い気はしないなあ、などと考えていると、
後ろの師匠から「早く登れ」と尻を蹴られた。
石段はすぐに途切れ、枯葉で覆われた山道が現れた。標高の低い山だが道はかなり険しい。
寒さに慣れた身体はすぐに熱くなり、息が荒くなった。
それでも山歩きは今年、師匠にかなり鍛えられたので、ペースを乱すほどではなかった。
楓と和雄も慣れた足取りで平然と登っていく。
「へえ~。興信所で働いているんですか」
「ああ。その中でもわたしはオバケ専門」
「なんですか、オバケ専門って」
和雄は吹き出しながら師匠と会話を続ける。
なんだか如才ないやつだ。
体格も良く、少し彫りの深い顔だがなかなかの色男だし、なんと言っても笑顔が爽やかだった。
実に気に食わない。
「僕らも見たんですよ、例の幽霊」
な?と先頭の楓に話を振る。
「うん。見たよ。怖かった」
「どんな風に?」
師匠はこの場にいるのが全員年下のせいか、さっきまでの営業トークから一転してくだけた口調で話しかける。
楓は平日に仲居が一人休んだので、晩の給仕を手伝わされていた時、
膳を下げるため廊下を通っていると窓ガラス越しに、やけに白っぽい格好のふわふわした人影が目に入ったのだそうだ。
「出る、って聞いてたけど、ホントに見たら腰が抜けそうになりますねえ」
人影はすぐに消えてしまったらしい。三ヶ月くらい前のことだった。
「僕の方は風呂場ですよ。二ヶ月くらい前かな。
 大浴場の外に露天風呂があるんですけど、
 帰りが遅くなって泊めてもらった時に、お客さんが全員出た後で一人で入ってたんですよね。
 そしたら、湯気の中からこっちにスーッって、水面を歩いてくる人がいるんですよ。
 やばい、と思って立ち上がって逃げようとしたんですけど、お湯に足を取られて走れなくて、
 向こうはスーッて近寄ってくるでしょう?生きた心地がしなかったですよ。
 なんとか逃げ切って脱衣所のところまで来て、振り返ったらもう見えなくなってましたけど」
あ、露天風呂自体はすごく良いお湯ですから、後でぜひどうぞ。和雄はさりげなくそう付け加える。


358 :未 本編1 ◆oJUBn2VTGE :2012/01/02(月) 23:30:00.47 ID:93PkLSJW0
「あなたはその神主の霊の子孫じゃないの?なんでびびってんの」
「いやあ、それなんですけど、なんかピンと来ないんですよね。
 ご先祖様がなんで『とかの』を祟らないといけないのか、さっぱり分からないんですよ。
 なにか言ってくれればいいのに、うらめしいの一言もなしですよ。
 なんなんでしょう、一体。親父も首を傾げてますよ」
父親の章一さんはかなり責任を感じていて、女将や楓に会うたびに頭を下げているらしい。
御祓いも何度も行なったし、それでどうしても上手くいかなかったので、
恥も外聞もなくこうしたことに強いというお寺を自ら探してきたりと、
とにかく神主の霊が出なくなるように協力してくれている。
今のところその効果は見られないようだが。
次男とはいえ、成人した息子が幼馴染の女の子のところへ入り浸って、その家業の従業員のような真似をしているのを、
叱りもせずに見逃しているというのも、そうした後ろめたさがあるせいなのかも知れない。
「お父さんが宮司なんだよね」
「ええ。もう先祖代々の」
師匠は若宮神社の宮司、石坂家の家族構成を正確に聞き出した。
父親が宮司の章一、母親が昌子、兄が皇學館の大学院に在籍中の修(おさむ)、そして妹が専門学校生の翠(みどり)。
あと、父方の祖母がいるそうだが、今は西川町の病院に入院中とのことだった。
この一帯の松ノ木郷も、行政単位としては西川町の一部なのだが、
このあたりの人は、町役場のあるあたりだけを指して西川町と呼んでいるようだ。
「兄貴が大学を卒業したら、戻ってくるんですよ。
 うちで権禰宜をしながら、西川町の高校で歴史を教えるって言ってます。
 親戚筋の神社からも、神職の手が足りないって相談されてるんで、ひょっとしたらそっちに行くかも知れませんけど。
 どっちにしても、いずれはうちの若宮神社の跡を継ぐんですけどね、兄貴は」
和雄は冗談めかして自分の二の腕を叩いた。
「だから、僕なんて肩身が狭いですよ。早いトコ手に職つけないと、いずれ実家から追い出されちゃいますから」
和雄の方は神道系のコースのある大学ではなく、一般大学の法学部に在籍している。
「章一さんの前の宮司はお祖父さん?」
「そうです。もう五年になりますね」
すでに亡くなっているらしい。
師匠は『とかの』に現れる霊がそのお祖父さんである可能性はないかと尋ねた。
すると和雄は「それはないですね」と即答する。


359 :未 本編1 ◆oJUBn2VTGE :2012/01/02(月) 23:32:02.51 ID:93PkLSJW0
「祖父はあの年代の人にしては、凄く押し出しの立派な人でしたから」
今の自分よりも背が高かったんですよと、頭の上に手をやってみせた。
なるほど。そんな大柄な人なら、たとえ顔がぼやけていようが、幽霊になって現れたらそれと分かりそうなものだ。
女将や旅館の人々も、先代の宮司を良く知っているだろう。
誰もそのことに触れないということは、どうやら和雄の祖父が化けて出ているわけではないようだ。
もっと昔のご先祖様ということか。
「最近、神職の服が盗まれたりってことはない?」
師匠の問い掛けに和雄は眉をひそめる。
「誰かが、イタズラでもしてるってことですか」
「まあ、どんなことでも可能性はあるから」
自分自身、幽霊を目撃したという和雄からすると、それが誰かのイタズラだと言われても納得できないだろう。
確かにこれまでに聞いた多くの目撃談からしても、すべて人間の仕業というのは無理がある気がする。
「服が盗まれたことなんてありませんよ。もちろん紛失もありません」
和雄がはっきりそう言うと、師匠は「そう」と言ってそれ以上追求しなかった。

「あ、この先から見えますよ」
楓が指さした先には、木々の群れがぽっかり抜けたような空間があった。
その開けた所まで登りきると、遠くの景色が見渡せた。
「見晴らしがいいなあ」
師匠が手近な切り株に片足をかけた。
眼下には枯れ木で覆われた山の峰が広がっている。
それほど高くは登っていないはずだが、角度のせいかここからは『とかの』は見えない。
その代わり、平野を隔てた遠くの山の中腹になにかの建物が見えた。
「あれが、うちの神社ですよ」
和雄が指をさす。
「こうして見ると、結構近いな」
「でも『とかの』から歩いたら一時間近くかかりますよ」
見下ろす風景の中には畑や田んぼ、そして枯れ木ばかりの林など、寂しい色彩ばかりが広がっている。
その間を縫うように、枝川がくねくねと蛇のようにうねりながら伸びていた。
「なにもないところでしょう。だんだん人口も減ってますし。
 うちの神社のあたりなんて、今じゃバス停も遠くになっちゃって、不便でしょうがないですよ。
 家族全員バイクに乗ってるくらいです」


360 :未 本編1 ◆oJUBn2VTGE :2012/01/02(月) 23:33:43.33 ID:93PkLSJW0
「え~。うちの『とかの』のあたりの方がバス停遠いじゃん。たまにはそのくらい歩きなよ」
そんなことを話しながらしばらくそこで景色を見ていると、陽が翳ってきて寒さが身体に戻ってきた。
風も少し出てきたようだ。
「もう少し先が頂上ですけど」と和雄が尋ねたが、師匠は首を振って「もういいや。戻ろう」と言った。
頂上までの道はここから少し下った後でまた登りになっていたが、そのすべてがすでに見渡せた。
女将の言っていたとおり、裏山には神社やそれに関するものは全く見当たらなかった。
頂上の反対側の下りも同じようになにもないと、楓と和雄が断言した。
師匠はそれほど残念そうでもなく、
また先陣を切って元来た道を下り始めた楓の後ろについて、山道を踏みしめていった。

五分ほど歩いただろうか。
右手側に大きくV字形に抉れた谷が広がっている場所に出たのだが、そこで師匠が足を止めた。
谷の方へ身を乗り出して首を伸ばしている。先はかなり急な崖だ。
後ろにいた僕は思わず「何をする気ですか」と止めに入りそうになった。
師匠はキョロキョロと周囲に目をやると、手がかりとなる木がまばらに生えた獣道を見つけ、
そこから崖の下へ降り始めた。止める間もなかった。
最初にザザザと山肌を滑るように降りた後、枯れ木にしがみついて勢いを殺し、
そこから先は器用に木の枝につかまりながら、あっと言う間に谷の底近くへたどり着いてしまった。
地元民の二人も驚いたようにそれを見つめている。
「なにかあるんですか?」
僕は両手でラッパを作って声を上げる。
師匠は谷の奥でうろうろしながらせわしなく動いている。
「ああ。こいつは地滑りの跡だ」
斜めに生えている潅木を叩きながら返事が返ってきた。
その谷は途中から水が湧いていて、さらに下へと流れていっている。
師匠はそのあたりの土を掘ったり木を揺すったりしながらその周囲を探索していたが、
やがて山肌から突き出ていた石の前にしゃがんで、堆積した土や苔などを手で払い始めた。
僕たちの眼下でその動きがふいに止まり、またすぐに立ち上がったかと思うと、そばの谷川の淵へ近寄っていった。


361 :未 本編1 ラスト  ◆oJUBn2VTGE :2012/01/02(月) 23:37:32.59 ID:93PkLSJW0
その先はさすがに危険な地形だったので諦めたのか、
師匠は猿のように木の枝につかまりながらこちらへ戻り始ってきた。
「悪い。待たせた」
山道へ戻ってくると、ズボンの土ぼこりや枯葉を払いのけながらあっけらかんと言う。
「すごいですねえ。レンジャーみたい」
楓がそう褒めると、和雄は「危ないからもうやめてくださいよ」と心配そうに詰め寄る。
「わかったわかった。もう帰ろう」と師匠は笑った。
そして楓、和雄の後についてふたたび山道を下り始める。
なにか予感のようなものがして、僕はそのすぐ後ろについた。

すると、前を行く二人としばらく談笑しながら歩いていた師匠が、こっそりとした手の動きで合図をしてきた。
顔を近づけた僕の耳元に素早く口を寄せ、「地滑りの跡に埋もれた石の表面に、こんな模様があった」と囁いた。
そして僕の手を握り、手のひらに指でなにか文字のようなものを書いた。
「え?」と怪訝な顔をした僕に、師匠は「面白くなってきた」ともう一度囁いて、
前を行く二人を早足で追いかけていった。
なんだろう。この字は。
僕は手のひらに残る文字の感触をじっと記憶に刻みながら、そして同時に記憶を呼び覚まそうとする。
漢字だ。
雨冠は分かる。その下に、丸……いや、口がみっつ。横に並んでいる。
そしてさらにその下に、なにか複雑な字が続いている。
龍という字だろうか。あるいは能力の能という字か。
いずれにしても、そんな漢字があるのだろうか。物凄く画数が多い。
しかし全体のバランスからして、一つの字としか思えない。
なんだ、この文字は。
僕は自分が足を止めていることに気づく。
前を行く師匠の背中に視線を向けたまま、手のひらに刻まれた文字の感触に身震いする。
なんだ、これは。
そんなことを口の中で繰り返しながら、僕は冬枯れの山道に立ち尽くし、
じわじわとその文字に沿って自分の血が流れ出て行くような、得体の知れない悪寒に包まれていた。

「『未 本編2』1/4」に続く

次の記事:『M.C.D.』
前の記事:『未 本編1』2/4
[ 2012/01/05 ] 師匠シリーズ | この記事をツイートする | B!


copyright © 2024 怖い話まとめブログ all rights reserved.
/ プライバシーポリシー