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『未 本編2』2/4

師匠シリーズ。
「『未 本編2』1/4」の続き
【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ19【友人・知人】

406 :未 本編2 ◆oJUBn2VTGE :2012/01/07(土) 22:36:44.05 ID:HrRb/QUY0
「ええ。私が小さいころですから、もう三十年以上前になるでしょうか。
 このあたりに記録的な大雨が降ったことがございまして……」


降り止まないどころか、ますます勢いを強くする雨に、
子どもながらなにか大変なことが起きているということは分かったのだそうだ。
その日、折からの大雨のために『とかの』に客はいなかったのだそうだが、
旅館中をみんながバタバタと落ち着かずに動き回り、
夕方ごろには、父親とまだ健在だった祖父とが血相を変えて「裏山を見てくる」と雨具を被って出て行った。
近くの他の家からも大人が何人か雨の中に出てきて、山の方へ向かったようだった。
恐る恐る玄関から外を見ていると、滝のように轟々という音を立てて降ってくる雨の中から、
「川には近づくなよ」という誰かの声が混ざって聞こえた。

しばらくすると、ふいに地響きのような音が雨空に唸りを上げた。
それは耳を塞いでも聞こえてきた。恐ろしい音だった。
住み込みの男性従業員が「崩れたんじゃないか」と叫んで、雨の中に飛び出していった。
父と祖父のことが心配で、気がつくと自分も外に出ていた。
バケツをひっくり返したような大粒の雨が、絶え間なく上空から落ちてくる。
その雨の中を合羽も着ずに走った。視界は悪く、片手で額を覆っても目を開けることが困難だった。
山の方から大人たちの大声が聞こえてきた。「崩れた」「危ない」という言葉が聞こえた。
その中に父と祖父の声もあって、ホッと胸を撫で下ろした。
安心すると、『見つかったら叱られる』ということに気がつき、『早く戻らないと』と引き返そうとした。
その時、ふいに桜の木のことが頭に浮かんだ。枝川の土手にある桜だ。
土手の壁面から斜めに生えていて、増水した時には根元が水に浸かるんじゃないかといつも心配していた。
思わず川の方へ足を向けた。

降りしきる雨の中、目を凝らしても桜の木は見えなかった。
このあたりのはずなのに。流されてしまったのだろうか。
土手に近づいて川の方へ目をやると、
今までに見たこともないような濁流が、うねりを伴って川上から川下へと流れていた。
恐ろしくて足が動かなかった。雨音と川の奔流の音で耳が痛い。
全身を鉛のような雨粒に叩かれながら、猛り狂う川の流れから目を離せないでいると、
狭い視界の端に不思議なものが映った。


407 :未 本編2 ◆oJUBn2VTGE :2012/01/07(土) 22:39:53.29 ID:HrRb/QUY0
物凄い速度で流れていく泥水の中に、真っ黒い動物の身体が見えたのだ。
その胴体は途方もなく長く、波打っていて、濁流に乗り目の前を通り過ぎようとしていた。
蛇だ。
それも、胴だけで一抱えもある、とてつもない大蛇。
その身体が怒り狂うようにうねりながら、大雨と濁流の中を流れて行く。
息を飲んでその行方を見守る。
遥か彼方へその姿が消え去っても、しばらくその場を動くことができなかった。

「なにしてる、こんなとこで」
怒鳴り声とともに祖父に手を掴まれた。
なかば引き摺られながら『とかの』に向かっている間、「おじいちゃん、蛇が、蛇が」と喚いた。
祖父はギョッとした顔をしたが、「変なことを言うんじゃない」と叱りつけた。

『とかの』に戻ると、祖父がここは危ないので小学校へ避難すると宣言し、全員で雨の中を逃げた。
その間中、自分の頭の中には、のたうつ大蛇が川を流されていく姿が何度も繰り返されていた……


語り終えた女将は、
我に返ったように慌てて「おかしなことを申しました。子どものころに見た幻でございます」と付け加えた。
師匠は興味津々という顔で、「その後はどうなりました」と尋ねた。
「ええ。幸い、山が崩れたのは川側の方だけでして、結局旅館の方は大丈夫でした。
 その後、役場が委託した調査会社の方が調べたところによると、
 今後また万が一土砂崩れがあっても、やはりこの『とかの』の方へは崩れてこないということでしたので、
 ご安心ください」
ちゃんと忘れずにフォローもしている。なかなか抜け目ない人だ。悪い噂などどこから広がるか分からないのだから。
「その、大雨の日の土砂崩れの前にも、やっぱり裏山には神社の跡などはなかったんですね」
「ええ。なかったはずです」
「わかりました。ありがとうございます」
師匠はあっさりとそう言うと、女将の祖父のことや先代である父親のことをあれこれと訊いた。
祖父はもちろんだが、父親も母親ももう亡くなっていた。
そして入り婿であった女将の夫、つまり楓の父親も、十年ほど前に病気でこの世を去ったのだそうだ。


408 :未 本編2 ◆oJUBn2VTGE :2012/01/07(土) 22:42:28.81 ID:HrRb/QUY0
師匠はこの戸叶家の事情をおおよそ訊き終えて満足したのか、
最後に「では、今夜はわたしとこの助手とで、夜中じゅう交代で番をします」と言った。
他の客が寝静まってから、これまでに神主の霊の目撃が多かった場所を中心に見張るというのだ。
「もしそれまでに出たら、とにかくすぐにわたしに知らせてください」
女将は「従業員もすべて承知しておりますので、よろしくお願いします」と言って頭を下げた。
お茶をいれなおしてから女将が部屋を出て行った後で、師匠はニヤリと笑って言った。
「こいつは、カナヘビちゃんだぜ」
カナヘビ?
なぜここでカナヘビが出てくるのか。
その意味を訊いても、はぐらかすように「風呂風呂、風呂に入ろう」と手を叩くだけだった。

「ねえ、あれ彼氏?」
「違うよ」
「うそぉ」
「まじで」
……
そんな黄色い声が頭の向こうから聞こえて来る。
露天風呂だった。
和雄の言うとおり、広々としていてなかなか良い湯だ。
そんな所を一人で占拠するのは、なんとも言えない良い気分だった。
岩に頭をもたせ掛けて空を見上げていると、ざぁー、と身体を流す音が遠くから微かに聞こえる。
頭の先には竹を組み合わせた壁があり、その向こうには女性用の露天風呂があるはずだった。
湯気が夜空に上っていき、澄んだ空気の果てにある星をゆらゆらと隠していく。
寒空の下、顔は冷たいのに身体だけは温かい。
いつもはシャワーばかりでお湯につかるという習慣がない僕だったが、こういうのもたまには良いものだ。
「ねえ、ほんとに彼氏じゃないの」
「ほんとだよ」


409 :未 本編2 ◆oJUBn2VTGE :2012/01/07(土) 22:44:48.00 ID:HrRb/QUY0
消極的な見栄を張った僕とは大違いだ。
ズルズルと背中を滑らせ、そのまま頭の先まで湯の中に沈み込んだ。頭の芯まで熱が入り込んでくる。
「彼氏じゃないのに、旅行してんの?」「なんかそっちの方がやらしい感じ」などという声が水を通して聞こえてくる。
師匠はさっそくOL四人組と仲良くなったようだ。師匠は今二十四歳のはずだから、同い年くらいか。
そうだよな。普通なら働いている年齢なのだ。それどころか子どもがいてもおかしくない。
湯の中に沈みながら、一人でそんなことを考えている。
師匠からはあまり大人の女という感じを受けない。子どもがそのまま大きくなったようだ。
なんだっけ。生物学上でこういうのを。ウーパールーパーとかサンショウウオがそうだよな……
思い出した。ネオテニーだ。幼形成熟、だったっけ。
まあ師匠の場合、あくまでその性格上の話だが。
頭の中でサンショウウオの姿がぐねぐねと変形し、図鑑で見たカナヘビの姿に変わった。
『こいつは、カナヘビちゃんだぜ』
湯から顔を出して、師匠の言葉を反芻する。
女将が見たという大蛇はなんだったのだろう。
あの枝川にはそういう『主』の言い伝えは特になかったそうだ。では一体?
大雨。土砂崩れ。大蛇。
あの裏山で師匠が見つけた石に刻まれていた、不思議な雨冠の漢字となにか関係があるのだろうか。
そしてそれは、この神主の霊が出るという事件と関係があるのだろうか。
真剣に考えを巡らせていると、また女湯の方から嬌声が上がった。
「もうヤったの?」
「やってないよ」
「うそぉ」
「まじで」
動揺した僕は湯の底についていた手を思わず滑らせてしまった。バシャンという音が立つ。
「ねえ、隣で聞いてるんじゃない」
竹で編まれた壁の向こうからの声。続いてキャーキャーという笑い声。
もう出よう。


410 :未 本編2 ◆oJUBn2VTGE :2012/01/07(土) 22:48:29.33 ID:HrRb/QUY0
僕はいたたまれなくなって露天風呂から上がる。
ドアを開けて大浴場の方へ戻ると、頭の禿げた父親と小学生くらいの息子が身体を洗っていた。
もう一組の泊り客の家族だ。
「こんばんわ」と挨拶をして脱衣所へ向かった。
出なかったな。
和雄が神主の霊を見たという露天風呂だったが、それらしい姿も気配もなにもなかった。
浴衣に着替えから廊下に出て、『湯』と書かれた暖簾の前に置いてあった藤製の長椅子に腰掛けて、
なにをするでもなく、ただ湯あたり寸前にまで火照っていた身体を冷ましていた。

しばらくぼうっとしていると、
師匠を含めた女性陣が、もう一つの『湯』と書かれた赤い暖簾の下からわらわらと出てきた。
「あ、やっぱりいた」
なにがやっぱりなのだ。
OLたちはあっちに卓球台があったから、「みんなでやりませんか」と誘ってくる。
あ、いいな。卓球は久しぶりだ。温泉に来るとどうしてこんなに卓球をやりたくなるのだろう。
その騒々しい一角に、タオル類を満載した台車を押している勘介さんが通りがかった。
じっとりと睨むような目つきで僕らのそばを通り過ぎる。
『観光気分か……!』
そう詰られたような気がした。
「ああ。ええと、わたしたちは遠慮しとくよ。な」
師匠に話を振られて「はい」と返事をする。
「じゃあさっきお願いしたとおり、オバケっぽいのを見たら教えてね」
師匠はOLたちに手を振りながら僕を引っ張っていく。
それから僕らは、また旅館中を視察して回った。
中庭や裏の駐車場を含めて見て回ったのだが、昼間と同じで特に異変は見当たらなかった。

仕方なく一度師匠の部屋に戻り、
なぜか備え付けてあった将棋盤を見つけたので二人でパチリパチリと指しながら、今日あったことを確認する。
「なんなんでしょうねえ、神主の幽霊って」
「さあなあ。見てみないことにはな」
「あの、裏山の石に書かれていたっていう漢字と、なにか関係があるんですか」
「さあなあ」
師匠は気のないような素振りで情報を秘匿していた。
明らかになにか掴んでいるような感じなのだが、いつものようにもったいぶっている。

「『未 本編2』3/4」に続く

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