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『嫉妬深い奥様』


◇ 心霊ちょっといい話VER.8 ◇

574 :1/2:2005/12/01(木) 00:55:30 ID:T6KsFfoP0
去年の初夏、母と海外旅行をした。
滞在先は母の旧友夫婦のお宅。
しかし、数年前に大変仲のよかった奥様を亡くされたご主人の方は、遠い異国の地で一人ぽっち、
かなり気落ちしているとのこと。
少しでも気分転換になればと、母と他の友人数人で、期間を置いて入れ替わりお邪魔するという計画がたった。
1番手が母。
一人で行かせるのも心配だし、わたしのほうも同じ地域に偶然友人が居たので母に同行した。

そのお宅では、かつて奥様の部屋だった素敵なベッドルームをお借りして、10日間も滞在させていただいた。
部屋に飾られた、元気だった頃の奥様の、とても綺麗に笑っている写真が印象的だった。

滞在3日目、奥様のお墓参りをさせてもらった日の夕食、お酒のまわったご主人が冗談まじりに母を口説いた。
子供たちもとうに独立し、寂しかったのもあったのだろう。もちろん笑って流す母。
夜も更けたので、それぞれベッドルームに戻った。

先にバスルームを使い、さっぱりして出て来たわたしに母が苦笑しながら、
「あんたがお風呂に入っている間、マリコちゃん(奥様・仮名)の写真が何度も倒れたのよ。
 偶然だと思うけど、なんだか焼きもち妬かせちゃったみたいに思って、
 誤解だから、自分は全くその気ないから、と謝ったの。そしたら倒れなくなったわ」と。
恐がりの自分を母がからかったのかと、はいはいと笑って聞き流した。


575 :2/2:2005/12/01(木) 00:56:41 ID:T6KsFfoP0
それから2日後、自分は友人と再会し観光がてらたっぷり遊ばせてもらった。
夕方になって友人が車で滞在先へ送ってくれたので、
母があがってお茶でもと誘ったのだが、友人は遠慮して帰って行った。
スレンダーでその国での生活も長く、英語もバリバリ、なのに所作が優雅で柔らかい友人に、
母が「まるでヅカ出身の女優さんみたいにかっこいいわね~」と感心する事しきり。

夕食時に母が、
「スレンダーで、ホントにとても素敵な方だったわねえ。
 あんた(ご主人に)紹介してあげなさいよ、お友達になってもらえばどうかしら」
と言い出した。
まんざらでもないご主人。密かに焦る自分。
とある理由で友人をご主人に(そう言う意味では)紹介することが出来ない。
「彼氏がいるらしいから」とごまかし、「残念だけど、そんな素敵な人なら当たり前だね」とその場は終わった。

その夜、母がバスルームを使っている時、マリコさんの写真が倒れた。
一瞬ビビるが、まさかなあと立てかけ直す自分。
数分後、また倒れる。
正直ちょっと泣きそうになりながら立てかけ直し、倒れないよう支えもしっかりとセット。
…数分後、また倒れた。
静かにパニックの自分。
仕方がないので覚悟を決め、誰にも言うつもりのなかった友人の秘密をつぶやいてみた。
「マリコさん、心配しないで。実は今日会ったわたしの友人、男性なの。
 趣味が女装だと言うだけで、ちゃんと奥様もいるし、ゲイでもトランスジェンダーでもないから、
 紹介なんてそもそもできないの。
 ご主人とどうこうって、ホントあり得ないから」

写真はそれきり倒れる事はなかった。

帰国するまで母と2人で、朝晩マリコさんの写真に挨拶を続けた。
それきり一度も倒れなかったということは、きっと機嫌を直してくれて、嫌われないで済んだのだと思う。

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