「『一緒に日本対オランダ戦を見ようと約束していた彼女に今日フられた』2/7」の続き
一緒に日本対オランダ戦を見ようと約束していた彼女に今日フられた
94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 23:47:26.37 ID:hEvg6ntn0
まさか、そんな。
漫画やドラマじゃあるまいし。
そんな、ねぇ。
しばらくして出てきたEの手の上には、カステラがあった。
なんだろう。カステラの角に頭ぶつけて死ねとでも?
E「これ、親戚からもらったの。良かったらみんなで食べない?」
俺「いや、そんなお構いなくっ」
N「うん、私たち、ちょっと用事あるし。ねっ」
俺「ああ、そうそう。用事がね」
E「これからふたりで? 仲いいね」
にっこりとほほ笑むE。
E「でも、悪いものじゃないから。食べていってよ。ひとりじゃ食べきれない量でさー」
穏やかな笑顔のE。
E「それじゃあ、3人分に切り分けないとね!」
うわーい、包丁のお出ましだー。
95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 23:51:49.74 ID:hEvg6ntn0
俺「あwせdrftgyふじこlp;@」
(訳:もももももも、もちつけ!!)
N「あの、ほんと、大丈夫だから! 大丈夫だから、ねっ、Eちゃん!」
E「食べていってくれないんだ。冷たくなったね、Nちゃん」
N「そんなことないよ。でも、さっきちょっと喫茶店で軽食済ませちゃって」
E「Kくんと? 仲いいね。羨ましいな」
俺には包丁の刃先がキランと光るのが見えた。
俺「あ、俺が切ろうか。自炊してるから、包丁の扱いは慣れてるんだ」
E「ううん、私がやる」
そのやるってどっちの意味で?
そこでN、俺の手を取って、
N「ごめんEちゃん。ほんと、大丈夫だから! ちょっと用事あるからいくね! ごめん!」
そうしてふたりしてEの部屋を出た。
結局俺がしたことは事態を悪くしただけだったのではないか?
100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/19(土) 23:57:33.01 ID:hEvg6ntn0
俺「ごめん・・・」
N「そんな、Kが謝ることっ」
ふたりして駅前まで戻り、さっきとは違う喫茶店内で。
N「それに、ちょっと、嬉しかったよ」
俺「・・・何が」
N「うん、私のこと、庇おうとしてくれて」
・・・俺、そんなことしたっけ。終始チキンだったような。
N「本当にKが彼氏だったら頼もしいのにな」
俺「何言ってんだ」
それよりも問題はこれから先だ。
俺「どうする、これから。帰ったところで、Eがいるだろ」
N「そうだね・・・」
俺「やっぱりさ、一度警察に行った方がいいって。包丁取り出してたぞ。あれ、十分犯罪だろ」
N「でも、それはちょっと可愛そうな気が・・・」
俺「そんな思いやりでこっちに被害及んだら馬鹿みたいだろ」
N「うん・・・」
俺「俺も一緒についてくから、だから、行こう警察」
N「・・・ごめんね」
俺「いいって」
そして警察へ。
104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/20(日) 00:02:59.84 ID:JIC/7VWq0
その後のことを簡単に話すとこうなる
俺たち「へいポリスマン、ヘルプミー!」
俺たち「かくかくしかじか」
P「けしからん、もっとやれ」
で、一緒についてきてくれて色々揉めるも最終的にEは厳重注意。
Nは何かあったらすぐに警察に電話するように言われる。
その後は、不気味なくらいに静かな日々が続いた。
大学でもEはNにそれまではずっと一緒についてまわっていたのが、それ以降は挨拶を交わす程度のつきあいに。
毎晩のようにかけていた電話はすっかりかからなくなり、部屋に遊びに来ることもなくなった。
そういうことをNから電話で聞いて、俺も少しは胸をなでおろしたものだった。
俺のしたことも無駄ではなかっただと思うと、ほっとした。
そうして、俺の方も平穏な日々を過ごしていた。
Eが俺のアパートの前で立っているのを見るまでは。
109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/20(日) 00:06:20.41 ID:JIC/7VWq0
あの忌まわしき夏の日から4か月ほど経っており、
季節はすっかり年末モードだった。
大学から自転車で帰ってきた俺の視線に入ってきたのがそれだった。
一度引き返して10分くらいあたりを回ってから戻ったけどまだいた。
当然と言えば当然か。
俺は観念して、自転車から降り、それを押しながらEに声をかける。
ジャンバーのポケットの中に入っていたペンを左手でぎゅっと握りしめながら。
俺「や。どうしたの」
E「あ、Kくん。奇遇だね」
んなわけあるか。
117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/20(日) 00:09:29.77 ID:JIC/7VWq0
とりあえずは相手に敵意を向けないことだ。
相手が敵意を持っているのなら、それを排除することだ。
俺「えーと、よくわかったね。俺の住んでるところ」
E「探したよ」
俺「え」
E「Kくんがどこの大学通ってるかは知ってたから、そう難しいことじゃなかった」
俺「そ、そういうもんなの?」
E「今は情報化社会だし。人の口には戸は立てられないともいうしね」
俺「そ、そう」
な、何言ってんだ?
俺「で、どうしたのかな」
E「うん、お礼に来たの」
125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/20(日) 00:15:01.10 ID:JIC/7VWq0
俺「お礼・・・」
その単語を聞いて血のついたナイフが頭に浮かんだのは言うまでもない。
中に誰もいないじゃないとか言われたらどうしよう。
そんなことを思いながらEの言葉を待っていると、
E「あの夏の日ね。あのとき、KくんやNに叱咤されて、私、変わることが出来た」
叱咤した覚えはない。
E「私、あなたたちのおかげでようやく普通になれた気がするんだ」
そう言って、Eは俺に、驚くことに頭を下げた。
E「ごめん、迷惑かけて。あの時私、どうかしてた」
俺はその姿に戸惑わずにはいられない。
俺「えっ、いいよそんなっ。やめてくれっ」
E「本当に、ありがとう」
そうしてEは頭を上げる。
その表情は、実に清々しいものであった。
E「それだけ言いに来たの。ごめんね。時間取らせて¥。じゃあね」
そう言うと、背を向けて立ち去るE。
なんだったんだ・・・?
まあ、改心したのであればいいことだ。
部屋の前に、動物の死体が置いてあった。
132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/20(日) 00:19:24.01 ID:JIC/7VWq0
わからないさ。
これがEがしたことかなんて、わからない。
ただ、彼女がした可能性は99%だろ。どう考えても。
残りの1%はこの動物がたまたま俺の部屋の前でのたれ死んだ説。
俺は土を掘って動物を埋葬してやった後、
部屋のベッドに横になり、携帯電話を手に取った。
ほとんど無意識に、Nに電話してみた。
繋がらなかったらそれまでだったが、3、4コールで相手が出てくれた。
N『K? 久しぶりっ、どうしたの?』
俺「その後どうかと思ってさ・・・」
N『あ、心配してくれてるんだ』
なんだか嬉しそうなN。
N『大丈夫だよ、あれからは本当に、何にもないの。怖いくらいw』
俺「そっか・・・。じゃ、よかった・・・」
標的が変わったのか・・・。
136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/20(日) 00:22:10.80 ID:JIC/7VWq0
N『・・・どうしたの。なんか、元気ない?』
俺「わかる?」
N『わかるよ』
俺「あのさ・・・会えないかな」
N『えっ?』
俺「いつでもいいんだけど」
N『うん、いいけど・・・どうしたの?』
俺「ちょっと、ね」
N『・・・わかった。じゃあ、次の土曜は大丈夫?』
そうして土曜日にNと会った。
白いジャンバーを着てるのになぜか下は黒タイツを履いているとはいえミニスカートだった。
暑いのか寒いのかはっきりしてくれ。
140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/20(日) 00:27:55.71 ID:JIC/7VWq0
話すべきかどうか迷った。
それこそ、前の彼女と一緒だ。
ここで話してしまったら、また彼女が巻き込まれてしまうのではないか?
でも、自分は弱い人間だった。
誰かに話して少しでも楽になってしまいたかった。
だから、Nに話した。先日のことを。
それを聞いてNは、「酷い・・・」と顔をしかめた。
N「おかしいよ。どうしてKがそんな・・・」
俺「どうしてだろうな」
N「やっぱり、私が悪いんだ。私が相談しなかったら・・・」
俺「馬鹿。俺はNから相談を受けたことを後悔してなんかいない」
というよりも、むしろ。
俺「俺を、相談相手に選んでくれて嬉しかった」
N「・・・Kは、さ」
俺「ん?」
N「このこと、誰かに相談したりした?」
俺「いや、Nだけだよ」
N「・・・そっか。選んでくれたんだ、私を」
多分こんな感じの会話だった気がする。
それがきっかけだった。
俺とNが交際を始めるきっかけだった。
もちろん、それだけでは終わらなかった。
143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/20(日) 00:31:14.48 ID:JIC/7VWq0
付き合ってくれてる人ありがとう、こんな時間まで。
年も明けて、その年の春に俺は2回生になった。
結局Eからの嫌がらせはあれ以来音沙汰なしだ。
あの一回でEからしたら復讐として満足だったのかもしれない。
Nの方もEから何かされているということはないらしい。
春にはあのアパートをEは引っ越したそうだ。
俺とNの交際も順調に発展していたし、すべてがうまくいっているように見えた。
そう見えていただけだった。
あの女が、そう簡単な女であるはずもなかったのに。
俺はすっかり油断していた。
149 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/20(日) 00:34:55.56 ID:JIC/7VWq0
出会いは突然だった。
俺がバイトしているスーパーのレジに、その女は現れた。
こっちからしたら唐突に。相手からしたら計算通りなんだろう。よく知らん。
E「お久しぶり」
俺「・・・ああ。久しぶり」
簡単に挨拶を済ませて、俺は商品をバーコードで読み取っていく。
E「奇遇ね」
俺「んなわけあるか。どこに住んでたらこのアパートに偶然来る」
E「だって、実際に近いもの」
俺「え」
E「同じアパートに住む者同士、これからもよろしくね」
155 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/20(日) 00:38:17.37 ID:JIC/7VWq0
隣には、ずっと人が住んでいなかった。
大学から自転車で15分ほどのアパート。
駅まで自転車で10分ほどとそう悪くない物件だった。
俺が住んでいるのは最上階の角部屋。
その隣に人が住んでいる気配はなく、それは俺が住み始めてからずっとそうだった。
言われれば思い当たることがあった。
最近、隣で物音がしたような気がすると。
ああ、ようやく部屋が埋まったのかなとその時は考えた。
こういう場合、挨拶に行った方がいいのか、挨拶を待つべきなのか。
そんな呑気なことを考えていたものだ。
よりによって、隣はないだろう・・・?
160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/20(日) 00:42:27.05 ID:JIC/7VWq0
通っている大学が違えばその距離も違う。
したがって朝出る時間だって、夜帰る時間だって違う。
その証拠に、朝にEと遭遇することはまずなかった。
ごく稀にゴミ出しをする際遭遇することはあったが、そんなの微々たるものだ。
問題は夜である。
階段を上って最上階に着くと、そこには大抵あの女がいた。
いた、というよりはすれ違う。
俺「こんな時間にどこに?」
E「ちょっとコンビニに」
おそらく階段を上がる音を聞いてあいつは部屋から出るのだ。
そして俺とすれ違う。
何のためにそんなことするかなんてわからない。
ただ、俺の精神状態は日に日に悪くなっていった。
ああ、きっとそれが狙いなんだろう。
162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/20(日) 00:46:22.31 ID:JIC/7VWq0
俺が引越しをすればよかったのだろうか。
だが、なんで俺が引越しをしなければならない?
悪いのはあいつだ。俺に落ち度はない。
あったとしても、ここまでされるほどの何かをした覚えはない。
厄介なのはその行為というのが「目に見えて悪質」というほどではないということ。
別に危害を加えられるわけではない。
ただ、定期的にすれ違うだけ。
罵詈雑言を浴びせられるということでもない。
警察もまともに対応してくれはしなかった。
それどころか「考えすぎだ」とまで言われかねない勢いだった。
まるで俺が悪いかのように。俺が精神失調であるかのような扱いを受けた。
俺はこの部屋を気にいっている。
この場所でこれ以上の物件はそうそうあるものじゃない。
誰が出ていくものか。誰が負けるものか。
そう自分の中で決意を固めた。
俺は絶対あの女に負けない、と。
165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/06/20(日) 00:50:59.15 ID:JIC/7VWq0
俺の部屋の隣にEが引っ越してきた。
それを聞いてNは「信じられない・・・」と苦痛に顔をゆがめた。
N「なんなのあの子・・・。それでどうして毎日大学に来れるんだろ・・・」
俺「女が男のストーカーをするというのも珍しいよな」
N「・・・しばらくさ、ウチに泊まりなよ」
N「そうすれば、あの子だって、諦めるかもしれない」
俺「諦めると思うか・・・?」
N「・・・・・・」
俺「ここで変なアクションしたら・・・余計事態が悪くなる気がする・・・」
N「・・・どうしてKが苦しまないといけないの・・・」
俺「まあ、ここまで来たら辛抱勝負だな――」
N「・・・ない」
俺「えっ?」
N「・・・こんなにKを苦しませて・・・許せない」
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