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『危険な好奇心』6/6

「『危険な好奇心』5/6」の続き
【携帯】連投できない人の怖い話 3投目【歓迎】

219 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/29(月) 03:20:27 ID:/lsJmPn1O
『中年女』はこちらに一切目を合わせず、軽く会釈をし、ゴミを回収し始めた。
俺は何と声を掛けていいのかわからず、しばらく中年女の様子を伺っていたが、
淳が「おばさん!どーゆーつもりだよ?」と 切り出した。
中年女はピタッと作業の手を止め、俯いたまま静止した。
淳は続けて、「あんた、俺の事覚えてたんだろ?俺には謝罪の言葉一つも無いの?」
俺はドキドキした。まさか淳が急にキレ口調で話すなんて、予想外だった。
中年女は俯いたまま、「ごめんねぇ・・・』と、か細い声を出した。
淳はその素直な返答に驚いたのか、キョトンとした目で俺を見て来た。
俺は「おばさん・・・本当に反省してるんだよね?」と聞いてみた。
すると中年女はこちらを向き、
「本当にごめんなさい。私があんな事したから淳君、こんな事故に遭っちゃって・・・
 私があんな事したから・・・ほんとゴメンね!」と。
俺と淳は更にキョトンとした。何か話がズレてないか?
俺は「いや、昔あんた、犬に酷い事したり、俺ん家にきたり、すべてひっくるめて!」と言った。


221 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/29(月) 03:44:26 ID:/lsJmPn1O
中年女は、
「本当にごめんなさい!私が、私があんな事さえしなければ・・・こんな事故・・・
 ごめんね!本当にごめんね!」
と、泣きそうな声で言った。
その態度、会話を聞いていた病室内の患者の視線が、一斉にこちらに注目していた。
静まり返った病室に、「ゴメンね!ごめんなさい!ゴメンなさぃ!」と、中年女の声だけが響いた。
淳は少し恥ずかしそうに、「もういいよ!だいたい、俺が事故ったの、アンタとは一切関係ねーよ!」と吐き捨てた。
中年女はペコペコ頭を下げながら、淳のベットのゴミを回収し、
最後に「ごめんなさい・・・」と言い、そそくさと病室から出て行った。

その光景を周りの患者が見ていたので、しばらく病室は変な空気が流れた。
淳は「何なんだよ!あのオバハン!俺は普通に事故っただけだっつーの。何勘違いしてやがんだよ!」
と言いながら枕をドツイた。
俺は『中年女』の行動、言動を聞いていてハッキリと思った。
やはり『中年女』は少しおかしい。
いや、謝罪は心からしているのだろうが、アイツは呪いの儀式を行った事を謝っていた。
呪いを本気で信じているようだった。


222 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/29(月) 03:58:35 ID:/lsJmPn1O
淳は、
「あの頃は無茶苦茶怖い存在やって、今だにトラウマでビビってたけど、
 さっき喋って思ったんは、単なるオカルト信者のオバはんやって事やな!」
と、何処かしら憑き物が取れたと言うか、清々しい表情で言った。
俺は「あぁ昔と違って、俺らの方が体もデカくなったしな!」と調子を合わせた。
「さて、とりあえず一件落着したし、俺帰るわ!」
「おぅ!また暇な時来てや!」
と言葉を交わし、俺は病室を出た。

家に帰る途中、俺は慎の事を思い出した。
アイツにもこの事を伝えてやろうと。
アイツも今回の話を聞かせてやれば、あの日のトラウマが無くなるのでは無いか、と。


250 :247の前:2006/06/02(金) 02:39:56 ID:6rqtwJH50

:『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:06/06/01 02:47:31 ID:HcpydJoy
家に帰り早速、慎と同じサッカー部だった奴に電話をかけ、慎の携帯番号を聞いた。
そして慎の携帯に電話を掛けた。
『おう!ひさしぶり!』
なつかしい慎の声。
俺はしばし慎と、最近どうよ?的な話をした後、
淳が事故って入院したこと、その病院に『中年女』が清掃員として働いていること、
『中年女』が昔と別人のように、心を入れ替えている事を話した。
慎は『中年女』が謝罪してきたことに対し、たいそう驚いていた。
そして最後に慎は、『淳が退院したら三人で快気祝いをしよう』と言った。
もちろん俺は賛成し、「淳の退院のメドがつき次第連絡する」と伝えた。

その翌日、俺は病院に行き、
淳に「慎がおまえの退院が決まり次第、こっちに帰って来て快気祝いしようってよ!」と伝えた。
淳はたいそう喜んでいた。


247 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/06/02(金) 00:51:34 ID:Cc3LUK3SO
それから一週間程、病院に見舞いには行っていなかった。
別に理由は無いが、新学期も始まり、なかなか行く時間が無かったというのもある。
それに『中年女』が更正(?)しているようだったので、心配も以前ほどはしていなかった。
何かあれば、淳から電話があるだろうと思っていた。

そんなある日、淳から電話が掛かってきた。
内容は、『来週退院する!』との事だった。
俺は「良かったな!」と祝福の言葉と共に、『中年女』の動向を聞いたが、
『普通にゴミ回収の仕事をしている。特に何もない』との事だった。

そして、さらに一週間が経ち、淳は退院した。
俺は学校帰りに、淳の家に立ち寄った。
チャイムを押すと、松葉杖をつきながら淳が出てきた。
「おぅ!上がれよ!」
足にはギブスをはめたままだったが、すっかり元気そうだった。
淳の部屋でしばし雑談をした。

夕方になり俺は帰宅。夕飯を喰った後、慎に電話をした。
「淳、退院したぜ!」
『まぢ!そっか、じゃあ快気祝いしなくちゃな!
 すぐにでも行きたいけど、部活が忙しいから、月末頃にそっち行くよ!』
との事だった。


280 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/06/05(月) 01:40:06 ID:ZlsKc24yO
そして月末の土曜日。
俺、慎、淳。
小学校以来、久しぶりの三人での再会だった。
昼に駅前のマクドで落ち合った。
久しぶりに会った慎は、冬なのに浅黒く日焼けし、少しギャル男気味だった。
まぁそれはさておき、夕方まで色々と語った。
それぞれの高校の話。
恋の話。
昔の思い出話・・・
もちろん、『中年女』の話題も出てきた。
あの時、それぞれが何よりも恐ろしく感じていた『中年女』も、今となればゴミ回収のおばさん。
病院での出来事を、俺と淳が慎に詳しく話してやると、
慎は「あの頃と違って、今ならアイツが襲って来てもブッ飛ばせるしな!」と笑いとばした。
もう俺達にとって『中年女』は過去の人物、遠い昔話で、トラウマでも無くなっていた。


282 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/06/05(月) 01:59:26 ID:ZlsKc24yO
夕方になり、俺達はカラオケBOXに行った。
久しぶりの三人での再会と言うこともあり、俺達は再会を祝して酒を注文した。
まぁ酒と言っても酎ハイだが・・・
当時の俺達は充分に酔えた。
各々、4、5杯ぐらい飲み、皆ほろ酔いだった。
いい気分で歌を歌い、かなりHIGHテンションだった。

そして二時間経ち、歌にも飽き出した時、慎がある提案をした。
「よーし、今から秘密基地に行くぞ!あの時、見捨てちまったハッピーとタッチの供養をしに行くぞ!」と。
一瞬、空気が凍った。
俺も淳も言葉を失った。
まさか、あの場所に行こうなんて、予想外の発言だったから。
慎はそんな俺達を挑発するように、
「オメーら変わってねーな!まぢでビビっんの?!ハハッ!」と、少し悪酔い?していた。
その言葉に酔っ払い淳が反応し、「あ?誰がビビるかよ!喧嘩売ってんのか慎?」とキレ出した。


283 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/06/05(月) 02:18:28 ID:ZlsKc24yO
俺は酔いながらも空気を読み、
「おいおい、やめとけって!第一、淳まだ杖突いてんだぜ?」と言うと慎がすかさず、
「あ、そっか。杖ツイてちゃ逃げれねーしな。ハハハ♪」と、かなりの悪酔いしていた。
淳は益々ムキになり、
「うるせーよ!行きてーんなら行ってやるよ!お前こそ途中でビビんぢゃねーぞ?」
と、まるで子供の喧嘩のようになり、
結局『ハッピーとタッチの冥福を祈りに』と言う名目で行くことになった。
慎、淳は二人とも結構酔っていたのと、引くに引けなかったんだと思う。
まぁ、ハッピーとタッチの供養はいずれしなければならないと思っていたので、いい機会かもと少し思った。
三人なら恐さも薄れるし。

カラオケBOXを出てコンビニに寄り、あの2匹が大好きだった『うまい棒』と『コーラ』を買い込み、
タクシーで一旦俺の家に寄り、照明道具を取って来てから、あの裏山へ向かった。


293 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/06/06(火) 10:37:00 ID:UBma/3yTO
タクシー運転手に怪しげな目で見られつつ、山の入口でタクシーを降りた。
俺は三人でよく遊んだ裏山という懐かしさと共に、あの日の出来事を思い出した。
こんな夜更けに、また入ることになるとは・・・
そんな俺の気持ちも知らずに、淳は意気揚々と「さぁ、入ろうぜ!」と、杖を突きながらズカズカと入っていく。
その後ろをニヤニヤしながら慎が、明かりを燈しながらついて行った。
俺は「淳、足元気つけろよ!」と言い、慎に続いた。

いざ山に入ると、昔と景色が変わっていることに驚いた。
いや、景色が変わったのでは無く、俺達がデカくなったから景色が変わって見えているのか?
登山途中、慎が淳をからかうように、
「中年女がいたらどーする?俺、お前置いて逃げるけど♪」等、冗談ばかり言っていた。
思いの外スムーズに進め、30分程であの場所に到達した。


295 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/06/06(火) 11:27:49 ID:UBma/3yTO
初めて『中年女』と会った場所。
俺達は黙り込み、ゆっくりと明かりを燈しながら、あの樹に近づいた。
あの日、中年女が呪いの儀式をしていた樹・・・
間近に寄り、明かりを燈した。
今は何も打ち込まれておらず、普通の大木になっていた。
しかし、古い釘痕は残っていた。所々、穴が開いていた。
恐らく、警察がすべて抜いたのだろう。

しばらく三人で釘痕を眺めていた。
そして慎が、「ここらへんでハッピーが死んでたんだよな・・・」と、地面を照らした。
さすがにもうハッピーの遺体は無かったが、ハッキリとその場所は覚えている。
俺はその場に『うまい棒』と『コーラ』を供えた。
そして三人で手を合わせ、次は『タッチ』の元へ。
秘密基地跡へ向かった。


320 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/06/07(水) 09:30:31 ID:dXfc2GpkO
秘密基地に向かう途中、淳が「色々あったけど、やっぱ懐かしいよな」とポツリと言った。
すると慎が、「あぁ。あの夜、秘密基地に泊まりに来なければ、嫌な思い出なんて無かっただろうな」と言った。
確かに。この山で『中年女』に会わなければ、ここは俺達にとっては聖地だったはずだ。

「ここらへんだったよな・・・」
慎が立ち止まった。
秘密基地跡地。
もう跡形も無かった。あの日バラバラにされていた材木すら、一枚も無かった。
淳が無言でしゃがみ込み、『うまい棒』『コーラ』を置き、手を合わせた。
俺と慎も手を合わせた。

しばらく黙祷したのち、慎が言った。
「ハッピーとタッチがいなけりゃ・・・今頃俺達いなかったかもな」
淳「あぁ・・・」
俺「そうだよな・・・結局、『中年女』も更正して、なんだか、やっと悪夢から解放された感じだな」
しばらく沈黙が続いた。

ふと慎が、周囲や目の前の池を電灯で照らし、
「この場所、あの頃は俺らだけの秘密の場所だったのに、結構来てる奴いるみたいだな」と。
慎が燈す場所を見ると、スナック菓子の袋や空き缶が、結構落ちていることに気付いた。


323 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/06/07(水) 09:53:04 ID:dXfc2GpkO
俺は「ほんとだな。あの頃はゴミなんて全然無かったもんな。今の小学生、この場所しってんのかな?」と言った。
淳が続けて、「あの時は俺ら、まじめにゴミは持ち帰ってたもんな」と言った。
その時、慎が「うわっ!何だこれ!」と叫んだ。
俺と淳はその声に驚き、慎の照らす明かりの先に視線をやった。
一本の木に、何やらゴミが張り付いている。
よく見ると、無数の菓子袋や空き缶、雑誌が木に釘で打ち付けられていた。
「なんだこれ?!」
慎が明かりを照らしながら近づいていった。
俺と淳も後をついて行った。
「誰かのイタズラ??」
俺はマヂマヂと、打ち付けられたゴミを見た。
その時、
「あぁぁぁ・・・これ・・・俺の、ゴミぃ・・・ぁぁぁぁあ・・・」
と、淳が震えた声で言いながら硬直した。
「は?!」
俺と慎は聞き直した。
淳は、「あ゛ぁぁぁ・・・俺が、病院で捨てた・・・あぁぁ・・・」と言いながら後ずさりした。


325 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/06/07(水) 10:06:39 ID:dXfc2GpkO
慎が「おい!淳!しっかりしろ!んなわけねーだろ!」と怒鳴りながら、釘で打たれた一枚の菓子袋を引きちぎった。
それを見て淳は、「あー、ぁあぁ・・・」と奇妙な声を出し、尻餅を付いた。
その行動に俺と慎は呆気に取られたが、次の瞬間「うわっ!」と、慎が手に持っていた袋を投げた。
「え?!」と俺がその袋に目をやると、袋の裏に『淳呪殺』とマジックで書かれていた。
俺はまさか?と思い、木に釘打たれたゴミを片っ端から引き剥がし、裏を見た。

『淳呪殺』
『淳呪殺』
『淳呪殺』
『淳呪殺』

すべてのゴミに書かれていた。
淳は口をパクパクさせながら、尻餅を付いた状態で固まっていた。
慎が何気に周囲に落ちていたゴミを拾い、「おい!これ!」と俺に見せてきた。

『淳呪殺』

なんと、周囲に落ちているゴミにも書かれていた。


328 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/06/07(水) 10:21:17 ID:dXfc2GpkO
俺はその時、初めて気付いた。
『中年女』は更正なんて、はじめからしていなかったんだ。ずっと俺達を怨んでいたんだ。
病院でゴム手袋をして必死で分別していたのも、淳のゴミだけを分けていたんだ!
俺達に「ごめんね」と言っていたのも全部嘘だったんだ。
俺は急にとてつもなく寒気を感じ、此処にいてはいけない!と本能的に思い、
淳に「おい!しっかりしろ!行くぞ!」と言ったが、
「俺の・・・ゴミ・・・俺のゴミ・・・』と、淳は壊れていた。発狂していた。
とりあえず慎と俺で淳を担ぎ、山を降りた。

あれから8年、あの日以来、もちろん山には行っていない。
『中年女』とも会っていない。
まだ俺達を怨んでいるんだろうか?
どこかで見られているんだろうか?
しかし、俺達三人は生きている。
ただ、今だに淳は歩く事が出来ない。

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