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『親父の病気』

沙耶ちゃんシリーズ。
【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ4【友人・知人】

505 :まこと ◆T4X5erZs1g:2008/08/04(月) 23:38:22 ID:ZXMsBH9b0
ごめん、今回はオカルトの要素が薄い。

沙耶ちゃんにいろんなものが見え始めたのは、小学生の高学年ぐらいだそうだ。
彼女の父親と母親は、次女である沙耶ちゃんにはあまり興味を抱かなかった。
家はそこそこ裕福だったようだが、
沙耶ちゃんは食事をもらうのにも頭を下げるという、劣悪な環境に身を置いていたようだ。
ストレスのすべてをぶつけてくる親に対して、沙耶ちゃんは先回りして逃れる必要があった。
親の顔色をうかがい、金銭の制約を持ち出されないようにするために。

彼女に最初に芽生えたのは、霊を感じる能力ではなく、他人の心を読み取る感応力だった。
テレパスと言い換えたほうがわかりやすいか。
霊能力はオマケ。むしろ要らないと彼女は言っていた。

バイトで親しくなってから数ヶ月後、俺はプライベートでも沙耶ちゃんと会うようになっていた。
・・・と言っても、彼女が大学から帰ってくるときに、車を用意するだけの関係だったがorz

俺が30を目前に控えたある日、沙耶ちゃんが真面目な口調で切り出した。
「まことさんって、ご家族に恵まれてないですよね?」


506 :まこと ◆T4X5erZs1g:2008/08/04(月) 23:38:43 ID:ZXMsBH9b0
「まあ当たってる」
「・・・結婚は考えてないんですか?」
「相手いねーしww」
内心、期待に弾けそうになりながらそう答えた。いま考えると、馬鹿すぎ俺・・・
「探したほうがいいですよ。まことさんは、家族がなくなったらダメになる人だと思います」
「いや、いないことはないんだけどね(汗)」
『沙耶ちゃん、俺の家族にならない?』って言えっつーの俺・・・

俺の家族は、親父しかいなくなっていた。
母親は、俺が高校に入ったばかりのころに蒸発した。浮気相手と。
姉貴がいたが、なぜか母さんのことは棚に上げて、親父ばかり非難していた。
そして駆け落ちという形で、自らも家を出て行った。
俺には親父の非がわからなかった。子どもだったからかもしれない。いまもわからないけど。
親類でひしめく田舎の集落のことだ。俺の家庭のことはすぐに知れることになった。
同情が多数だったと思うが、若かった俺は、母や姉を恥部とすることが嫌で村を出た。高校は卒業しなかった。

沙耶ちゃんを送り届けてから、なんとなく気になって親父に電話をした。
そういえば、電話すらここ何年もしていなかった。
親父は浮かれた様子で、俺の連絡を喜んだよ。そして言った。
『今日な、医者に肝臓癌だと言われた。俺の顔を見られるのもあと一年だぞ』

余命をはるかに凌いで、2年後に親父は他界した。
俺は自宅アパートと故郷を飛行機で行ったり来たりして、自分が納得するまで親父の余生につき合った。
臨終の少し前、親父は言った。
「お前が電話して来なかったら、このときまでお前には知らせないつもりだった」

沙耶ちゃんには感謝してるよ。もし彼女に再会することができたら、真っ先にこの話を伝えてやりたい。
彼女は自分の能力を含めた、存在自体を消したいと思っていたようだから。

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