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『四つの顔』2/4

師匠シリーズ。
「『四つの顔』1/4」の続き
【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ10【友人・知人】

593 :四つの顔  ◆oJUBn2VTGE:2009/10/11(日) 23:02:56 ID:e4PX3/wx0
山下さんは急に明るい声を出して、「次、つぎ。次の話に行こう」と囃し立てた。
あまり深く語りたくないようだった。
そうしてまた、いつものありがちな怪談話のループに戻って行ったが、
どこか皆、気が乗らない様子だったのは、
すっきりしない四パターンの顔の話が、妙に気になっていたからかも知れない。
俺も疲労時の山下さんの頭の中で、Dという共通の顔にまとめられるなんだか分からない存在のことが、
心のどこかにずっとこびりついていた。

それからみんな酒が進みだんだんと無口になってきて、俺は気がつくとみかっちさんに揺さぶられていた。
寝てしまったらしい。
時計は十二時を回っていたというのに、みかっちさんとColoさんは「鏡占いに行こう」と言って俺を揺する。
「とりあえず顔を洗わせて下さい」と立ち上がった時に部屋を見回したが、山下さんと沢田さんはいなかった。
「疲れたからって、帰った」
みかっちさんはバカにしたような口調で、酒臭い鼻息を部屋にまいた。

その日以降、オフに山下さんが現れることはなかった。
ネット上の掲示板でも、書き込みがほとんど見られなくなっていた。

ある夜、ふと気になって、山下さんが最後に書き込みをしたのはいつごろだろうと調べてみた。
それは五日ほど前だった。
タイムスタンプから逆算すると、Coloさんの部屋であの話を聞いた時から二週間あまり経っている。
内容を見たとき、スクロールするマウスが止まった。
え?
嫌な感じが背中を走った。
こんな書き込みがあっただろうか。覚えていない。
『Dが増えている』
たったそれだけの一行レス。前後の他の仲間の会話と噛み合っていない。
紛れ込んでいる、という表現がしっくりきた。


594 :四つの顔  ◆oJUBn2VTGE:2009/10/11(日) 23:06:21 ID:e4PX3/wx0
それより古いレスを見てみたが、
そこから四日前に、仲間の会話へ当たり障りのない合いの手を入れているだけだった。
さらに遡ると、くだんのオフ会以前まで行ってしまう。
「Dが増えている」
俺は黒を背景色にした掲示板を見ながら呟いた。
椅子が小さく軋む。
Dとはもちろん、あの山下さんが見るという四パターンの顔の一つだろう。
それも誰もいないはずの風呂場に立っていたり、鍵の掛っているはずのドアから覗いていたりといった、
ありえない現れ方をする存在。
それが増えるとは、いったいどういうことなのか。
Dは出現頻度としては少なかったはずだ。次に少ないというCと比較しても、かなり少ないような印象だった。
それが増えるということは、
AやB、もしくはCに見えていた人間が、いつのまにかDの顔に見えるようになったということだろうか。
俺は薄気味悪くなって首を回し、卓上鏡を横目に見た。
いつもの自分の顔が映っている。
これが山下さんには他の人間と区別のつかない、ある種の仮面的な顔に見えるというのか。
俺の顔はAのはずだった。
今もAだろうか。
自分の顔に変った所がないか、鏡に近づいてしげしげと眺める。心なしか目の周りがむくんで見えた。
伸びをして、瞼を手の平の腹で押す。
山下さんに見えている顔とは、どんな顔だろう?
誰でもあって誰でもない顔を想像してみたが、どうしたって知っている誰かに似ている気がした。

さらにその二日後、夕飯を食べてぼうっとしている時にPHSが鳴った。
見覚えのない番号だったので、「はい」とだけ言って出ると、『良かった。いた』という声。沢田さんだ。
たまのオフ会以外ではほとんど接点がない。電話を掛けてくるなんて、初めてではないだろうか。


597 :四つの顔  ◆oJUBn2VTGE:2009/10/11(日) 23:09:29 ID:e4PX3/wx0
『掲示板見てる?』
「いえ」
そう答えながらブラウザを操作し、オカルトフォーラムのページを表示させる。
『二時間くらい前』
そう言われて最新のレスを確認すると、山下さんのハンドルネームがそこにあった。

Dが増えている

以前見たレスと同じ内容。
けれど始めに見たものよりも得体の知れない気持ち悪さがあった。
そのレスの少し前にも山下さんの書き込みがあった。

怖い

そのたった二言だけ残して、山下さんは去っている。なにかが起こっているような予感がして鳥肌が立った。
『家に電話してるんだけど、出ないの。携帯も』
「落ち着いてください。大丈夫ですよ」
沢田さんの声が切羽詰まったような響きだったので、なるべくゆっくり話し掛ける。
『怖い、っていう書き込みに気づいて、すぐに電話したのよ。
 でも出てくれなくて、何度か掛け直してたら、『Dが増えている』って書き込みがあった』
電話を鳴らしている間に書き込みが?
それが事実ならおかしい。
家にいながら電話を無視していることになる。それとも、別の場所でパソコンを使っているのだろうか。
『家に行ってみたいんだけど、一緒に来てくれない?』
「今からですか」
『そう。ちょっと怖いし』
どうして俺なんだろうと思ったが、考えると確かにフォーラムの常連には男性が少なく、
山下さんが当事者となると、あとは俺くらいしかいないのだった。
「京介さんは」
女性ながら俺より頼りになりそうな人の名前を挙げてみたが、『バイト中みたい』との返答があった。
やっぱり行かないといけないのか。


599 :四つの顔  ◆oJUBn2VTGE:2009/10/11(日) 23:12:02 ID:e4PX3/wx0
できたら家でごろごろしていたかったが、心配する沢田さんの気持ちも分かる。なんだか変だからだ。
仕方なく俺は同行に了承して電話を切った。
山下さんの家は知らなかったので、沢田さんの指定するコンビニへ向かう。
自転車をこぎながら、嫌な胸騒ぎがするのを必死でごまかそうとしていたが、
頭の中には『Dが増えている』という言葉ばかりがぐるぐるとリピートされ、
その度になけなしの勇気を振り絞らなくてはならなかった。

コンビニの車止めの上に立って背伸びしていた沢田さんを見つけて、声を掛ける。
「ちょっと先なんだけど」
そう言う沢田さんについて、自転車を押しながら歩いた。
人通りの少ない夜の遊歩道を抜け、物寂しく点滅する街灯の下を歩き、やがて二階建てのアパートが見えてくる。
「一階の右端なの」
緊張した声でそう言うと、沢田さんは携帯を取り出し、リダイヤルボタンを押した。
しばらく耳を当てていたが、やがて諦めて腕を下ろす。
「やっぱり出ない」
顔を見合わせていたが、とりあえず部屋を訪ねてみないことには始まらない。
道端に自転車をとめ、右端のドアの前に立った。
横にある台所らしき窓は真っ暗だ。ドアの真ん中に口を開けている郵便受けからは、なにもはみ出していない。
ずっと留守をしているのなら、新聞やチラシが詰め込まれていても良さそうなものだ。
チャイムを鳴らしてみる。耳を澄ましたが、中でちゃんと鳴っているのかよく分からない。
しばらく待ってからドアを叩く。
「山下さん」
「山下さぁん」
さらに待っても反応は無かった。
左の方から光が近づき、乱暴な音とともに背後を通り過ぎる。
俺がその車に気を取られてよそ見をしていると、「開いてる」という声がした。
振り返ると、沢田さんが口を押さえてドアノブを握っている。
「山下さん」


603 :四つの顔  ◆oJUBn2VTGE:2009/10/11(日) 23:16:33 ID:e4PX3/wx0
もう一度呼びかけながら、二人でドアの隙間から中を覗き込む。暗くてよく見えない。
「いるような感じがしませんね」
俺は声を潜めて、玄関にソロソロと足を踏み入れる。そして壁際に手を這わせ、電気のスイッチを探り当てた。
眩しさに一瞬顔をしかめながら靴を脱ぐ。
「鍵の掛け忘れですかね」
山下さんの部屋は、一人暮らしにしては割と広い。そしてとても綺麗に整理整頓されている。
余計な物が全く無く、有る物はすべてきっちりと相応しい向きに並べられている。
台所も料理道具が揃っているのに、まるでほとんど使われていないかのようにピカピカだった。
神経質な彼の性格そのままの部屋だ。
テレビの前にあるベッドを見ると、掛け布団がほとんど起伏もなく伸ばされている。
生活臭がない。一体いつごろまで彼がこの部屋にいたのかも分からなかった。
「でも二時間半くらい前までは、いたはずなんですよね」
机の上のパソコンに目を遣った。
近づいて本体のパワーボタンに手を伸ばしかけると、「ちょっと、悪いよ」とたしなめられる。
それもそうだ。様子が変だからと訪ねてきたものの、勝手に留守中の部屋の中をいじくって良いはずはない。
失踪したわけでもないのに。
そう思った時、ふと頭にその単語が引っ掛かった。失踪?どうしてそんなことを思ったのだろう。
パソコンの前に立ったまま床に目を落として考える。
その思考が、一筋の悲鳴にかき消された。
ハッとして振り向くと、洗面所があるらしきドアの向こうから、続けざまに短い声が上がる。
「どうしたんです沢田さん」
そちらに足を踏み出しかけると、いつかの山下さんの話が脳裏を過ぎった。
『まだお湯張ってない湯船に、立ってるんだ』
Dが……
ぞわぞわと背筋が冷たくなる。
誰だか分からない人物が無表情でドアの向こうに立っているのを、勝手に脳がイメージしてしまう。

「『四つの顔』3/4」に続く

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