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『血(後日談)』

師匠シリーズ。
『血(後編)』の続き
死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?140

813 :血  後日談:2006/08/28(月) 22:09:47 ID:9j0TgqFm0
大学1回生の秋。
借りたままになっていたタリスマンを返しに、京介さんの家に行った。
「まだ持ってろよ」という思いもかけない真剣な調子に、ありがたくご好意に従うことにする。
「そういえば、聞きましたよ」
愛車のインプレッサをガードレールに引っ掛けたという噂が、俺の耳まで流れてきていた。
京介さんはブスッとして頷くだけだった。
「初心者マークが無茶な運転してるからですよ」
バイクの腕には自信があるらしいから、スピードを出さないと物足りないのだろう。
「でもどうして急に、車の免許なんか取ったんですか」
バイカーだった京介さんだが、短期集中コースでいつのまにか車の免許を取り、
中古のスポーツカーなんかをローンで購入していた。
「あいつが、バイクに乗り始めたのかも知れないな」
不思議な答えが返されてきた。
あいつというのは、間崎京子のことだろうと察しがついた。
だがどういうことだろう。
「双子ってさ、本人が望もうが望むまいがお互いがお互いに似てくるし、それが一生つきまとうだろう。
 それが運命ならしかたないけど。双子でない人間が、相手に似てくることを怖れたらどうすると思う」
それは間崎京子と京介さんのことらしい。


825 :血  後日談:2006/08/28(月) 22:37:13 ID:9j0TgqFm0
「昔からなんだ。
 あいつが父親をパパなんて呼ぶから、私はオヤジと呼ぶようになった。
 あいつがコカコーラを飲むから私はペプシ。
 わかってるんだ。そんな表面的な抵抗、意味ないと思っていても、自然と体があいつと違う行動をとる。
 違うって、ホントに姉妹なんていうオチはない。 
 とにかく嫌なんだよ。なんていうか、魂のレベルで。
 高校卒業するころ髪を切ったのも、あいつが伸ばしはじめたからだ」
ショートカットの頭に手のひらを乗せて言った。
「今でもわかる。
 なにかをしようとしていても、その先にあいつがいる時は、わかるんだ。
 離れていても同じ場所が痛むという、双子の不思議な感覚とは逆の力みたいだ。
 でも逆ってことは、結局同じってことだろう」
京介さんは独り言のように呟く。
「変な顔で見るな。おまえだってそうだろう」
指をさされた。
「最近、態度が横柄になってきたと思ってたら、そういうことか」
一人で納得している。
どういうことだろう。
「おまえ、いつから俺なんて言うようになったんだ」
ドクン、と心臓が大きな音を立てた気がした。
「あの変態が、僕なんて言い出したからだろう」
そうだ。
自分では気づいていなかったけれど。
そうなのかも知れない。


827 :血  後日談 ラスト:2006/08/28(月) 22:39:04 ID:9j0TgqFm0
「おまえ、あの変態からは離れた方がいいんじゃないか」
嫌な汗が出る。
じっと黙って俺の顔を見ている。
「ま、いいけど。用がないならもう帰れ。今から風呂に入るんだ」
俺はなんとも言えない気分で、足取りも重く玄関に向かおうとした。
ふと思いついて、気になっていたことを口にする。
「どうして『京介』なんていうハンドルネームなんですか」
聞くまでもないことかと思っていた。
たぶん全然ベクトルが違う名前にはできないのだろう。京子と京介。正反対で同じもの。
それを魂が選択してしまうのだ。
ところが京介さんは顔の表情をひきつらせてボソボソと言った。
「ファンなんだ」
信じられないことに、それは照れている顔らしい。
「え?」と聞き返すと、
「BOφWYの、ファンなんだ」
俺は思わず吹いた。いや、なにもおかしくはない。一番自然なハンドルネームの付け方だ。
けれど、京介さんは顔をひきつらせたまま付け加える。
「B'zも好きなんだがな。『稲葉』にしなかったのは……やっぱりノー・フェイトなのかも知れない」
そう呟き、そして帰れと俺に手のひらを振るのだった。


829 :血 について:2006/08/28(月) 22:42:27 ID:9j0TgqFm0
この話は夏から秋にかけてのものだ。
そのため秋の時点の『俺』に一人称を統一していたが、本編の時点ではやはり『僕』と書くべきだった気がする。
師匠の『僕』も間違い。

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