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『邪法の記憶』2/2

「『邪法の記憶』1/2」の続き
原著作者「怖い話投稿:ホラーテラー」「かげなりさん」 2012/04/19 17:43

藤宮は子供達の家に走った。
着ていた服はボロボロだ。
見世物小屋の主人に、史郎に会わせてくれとしつこく付きまとって殴られたのだった。
殴られたなど、そんなことはどうでもいい。
邪法…鶴田はそう言っていた。
きっとそれは、子供達がしていたこっくりさんの事だ。
こっくりさん自体、西洋のテーブルターニングを日本流に間違って行う呪いだ。
それが災いしているとしたら…いや、それが仕組まれたことだとしたら…。
ともかく藤宮は子供達の顔を見て安心したかった。

貧民窟の家に赴き戸を開く。
すると中には日佐江だけが独り座っていた。
「日佐江さん、みんなは?」
藤宮が駆け寄るが、日佐江は表情一つ変えない。
「もう…行っちゃった。
 みんな背中から毛が生え始めたから、売られちゃった」
日佐江は小石を転がしている。
「売られた…?」
藤宮は目眩がした。
「まさか、坂上に…君達は坂上に邪法を…やらされていたのか?
 君は、君は何ともないのか?」
恐ろしくなった藤宮は恐る恐る聞いた。
「私は何ともない、こっくりさんしてないから…」
表情に出さないが日佐江はどこか悲しげだ。
「私は坂上の慰み物だから、売られない」
藤宮は戦慄を覚えた。
まだ年端も行かぬ子らを食い物にし私服を肥やす、これが人の所業と言えるだろうか。
坂上に感心していた自分にすら嫌悪した。
「ここを出ましょう」
藤宮は日佐江を優しく抱きしめた。
「うん、私出ていく。
 でも、やらないといけないことがあるの」
そう言うと日佐江はまた石をコロコロ転がした。
「恭子、正夫、史郎…本当にいいんだね?」
何かをぶつぶつ呟く日佐江に、何も言えず藤宮は立ち尽くした。
引き摺ってでも日佐江を連れていこうとしたが、頑として動かない。
狂気の内に育てられたこの子に、自分は何もしてやれない。
忘れよう。
そう思い藤宮は思考から逃げた。
瞼にこの記憶を奥深くしまい込んだのだ。
目を閉じたくなる現実を。
瞼を閉ざす。

藤宮は知らぬことだが、貧民窟にあった子供達の小屋は人知れず取り壊されていた。

藤宮が記憶をしまい、忌まわしい出来事を忘れてから二月が過ぎた。
藤宮は論文に必要な文献を探すため、行きつけの古書店に訪れていた。
商店街にある古書店なのだが、喧騒が嫌いな藤宮もこの商店街は何故だか好きだった。
きっと故郷に似ているからなのだろう。
そう思いながら歩いていると、射的屋から出てきた女連れの男とすれ違った。
射的屋とあるが、隠れて商売する売春屋だ。
しかし妙なのは、男の顔に見覚えがあることだ。
気になると藤宮は止まらない。
その場に立ち止まり、身体から記憶を探り始めた。
頭から順々に触り瞼に触れて、やっと思い出した。
坂上だ。
思い出した瞬間、憤怒が沸き上がる。
何かを考える間もなく後ろから坂上を殴りつけた。
突然の事に倒れた坂上に女は慌てている。
坂上がこちらに気づいた。
「何だ?いつぞやの先生か。
 いきなり殴るなんてご挨拶だね。
 話があるならあちらにいこうや」
坂上が親指で路地裏を指す。
普段落ち着いた藤宮も、この時は我を忘れていた。
もともと喧嘩もロクにしたことがない藤宮だ、案の定ボロボロになるまで殴られた。
「あんたに何か言われる覚えはねぇよ。
 何を知ったか知らねぇが、人がどんな商売しようと勝手だ」
藤宮は悔しかった。喧嘩など野蛮な人種がすること、そう思っていたが、やらなければいけない時が確かにあったのだ。
地に伏せて何もできない自分を嘆いた。
その時である。
坂上が何かに驚いている。
「日佐江じゃねぇか…」
ボロボロの藤宮の後ろに日佐江がいた。
日佐江も同じくらいボロボロの服を着ている。
「なんだ、勝手に出てったと思えば今さら何だ?」
無表情の日佐江から怒りが感じられる。
「何だ?お前もこいつみたいに俺に用か?
 お前だけは良くしてやったじゃねぇか。
 それともあれか?俺が忘れられねぇか?」
汚く喋る坂上に、日佐江はじりじりと詰め寄る。
「みんな…友達だったから…」
そう言うと、日佐江は持っていた巾着袋からじゃらじゃらと石を撒いた。
「いいよ、みんな」
日佐江はやっと悲しそうな表情を浮かべる。
すると無数の小石から、もうもうと煙が立ち上った。
「な、何だこの煙は!?」
不思議な事に、煙は天に帰らず、藤宮を通り越して坂上の近くにまとわりついた。
「な、何だ…?
 あっ!
 熱っ、熱い!?
 熱い、焼けるっ…!!」
煙の中の坂上がプスプスと音を上げ苦しみ始めた。
不思議なことに、火もなく蛋白質が焼ける独特の臭いがする。
「熱い、助けてくれ。
 日佐江…
 日佐…」
段々と炭化し黒くなっていく坂上。その恐ろしい様を藤宮は言葉なく傍観していた。
そして見つけたのだ。
耳たぶを触る藤宮。
あぁ、確かにそこにいる。
遠子、五平、広太、兵蔵、、玉雄、寛、泰一郎、洋太、多助…。
あの時の子供達の顔が、煙に浮かんでいるのだ。
プスプスプス
煙が風で飛んでいった。子供達の顔と一緒に…。
するとそこには、真っ黒な焼死体が一つあった。
おぞましいそれを尻目に、藤宮は日佐江を見た。
「日佐江さん、これは…一体?」
日佐江は小さな声で言った。
「私は字が読めるから。
 本で読んだから。
 あいつにも呪いをかけた」
日佐江はパサッと本を落とした。
去ろうとする日佐江に藤宮は言う。
「すみません…日佐江さん。
 私はあの時、逃げた。
 現実から逃げて、忘れようとした。
 すみません」
意味のない事かもしれない。しかし藤宮は謝らずにはいられなかった。
すると日佐江は振り返ってにっこり笑った。
「逃げても、いいと思う…
 逃げても、逃げた道を忘れなければ。
 私は、これから、忘れずに…そうやって生きていく…」
藤宮が次に気づいた時、日佐江の姿はなかった。
忘れまい。
藤宮は再度この記憶を瞼にしまった。


原著作者「怖い話投稿:ホラーテラー」「かげなりさん」 2012/04/19 17:44


「おじ様、それが煙羅煙羅なのですか?」
忍が興奮気味に聞いた。
舞台は再び鶴田珈琲に戻る。
「煙羅煙羅…煙という字は正確ではありません。
 日佐江さんが落としていった古書を見て、私も後から知ったのですが…
 正しくは『閻羅閻羅の呪法』」
藤宮は紙に字を書いて伝えた。
「閻羅とは地獄の主の別称です。
 巾着に入っていた石は、死んだ子供が行き着く賽の河原の石を模した物でしょう。
 それを依代に、地獄の業火の煙となって舞い戻ってきたのです。
 あの世の安寧を犠牲に…
 恐らく日佐江さんは、獣憑きとなり死んだ子供達と一緒に、復讐を果たしたのでしょう」
忍は悲しそうな反応を見せている。
だから藤宮は話たくなかったのだ。
「逃げた道を忘れなければ…日佐江さんが別れ際言っていた言葉。
 人を呪わば…などと言うくらいです。
 坂上は自らが行った、おぞましい邪法とも言える行為のしっぺ返しを食らったのでしょう。
 そしてその後の日佐江さんも…」
藤宮は思い耽るように煙草に火をつけた。
寂しそうな顔をする藤宮に気を遣うように忍は言う。
「ごめんなさい、無理に話させてしまって」
「いえ、私も思い出さなければならない話だったのです」
藤宮は煙を静かに吐いた。
「じゃあ行きましょう、春祭り」
「私おじ様に元気になってもらいたいです」
藤宮は喧騒が嫌いなので、元気になることはないのだが、その心遣いが嬉しかった。
「ありがとうございます、ではご一緒しましょう」
藤宮は吸ったばかりの煙草を消した。
「早くおじ様」
袖を引っ張られて、世話しなく鶴田珈琲を後にした。

「啓子!」
賑やかな祭りの中、忍が啓子を見つけて手をふる。
「ズルい。おじ様と一緒にいたのね」
やはりどこかかしましい二人に、藤宮は和む。
啓子と忍が友達と喋っている。
その内、機を見て藤宮は一人帰ることにした。

春祭り、あの見世物小屋、史郎くんを思い出す。
すると奥まった場所に、見世物小屋があることに気づいた。
「あれは…」
史郎くんがいるのでは?
そんな期待はなかったが、何故かいてもたってもいられなくなった藤宮は、その見世物小屋へと入った。
「さぁ大鼬だよ」
男が血のついた大きな板を指す。
何年たっても変わらないようだ。客の反応すらも。
藤宮が立ち去ろうとした時だった。
「さぁさぁ皆様お待ちかね、蛇女だよ」
男が指差す先には一人の女性がいた。
手に蛇のような鱗がある女性だ。
藤宮は目を白黒させた。
見覚えのある顔…。
日佐江だ。
「さぁさぁ今からこの蛇女、こちらの蛇を…」
日佐江も藤宮に気づいたようで驚いている。
「日佐江ちゃん、何やってんの?お客さん退屈しちゃうよ」
男が慌てて耳打ちした。
日佐江はこちらを見て、にっこり笑った。
「日佐江さん…」
日佐江さん、あなたは、忘れていないのですね。
逃げた道を忘れずに生きていく…いつでもあの子らを忘れない見世物小屋というこの場で。
なるほど。巡業でこの街に来た日佐江さんに皆もついてきたのだろう。
藤宮はテントを出た。
先程吸いきる事のできなかった煙草に火をつけた。
煙草の煙が目にしみたのだろう。
日佐江の記憶がしまってある瞼に涙が滲んだ。


さてさて邪法の記憶はここまで。
それでは皆様、また藤宮が何かを思い出す時お会い致しましょう。

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