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『一人の酔っ払い』


◇ 心霊ちょっといい話VER.14 ◇

473 :1/3:2009/07/01(水) 02:05:37 ID:2lvgpqLY0
その日はなかなか仕事が終らなくて、自宅近くのバス停に降り立ったのは22時少し前だった。
自宅のマンションに向けて歩いていると、数メートル先に一人の酔っ払いが歩いていた。
酔っ払いは片腕を上げながら千鳥足で歩き、時折笑い声を上げていた。
『嫌だなぁ。絡まれたりしたら面倒だ』
そんな気持ちもあって、酔っ払いとの距離を縮めないように気をつけて歩いていた。

自宅マンションの近くまで来た時、エントランスから漏れる光で酔っ払いの横顔が見えた。
兄貴だった。
ホッとするのと同時に、『やれやれ』という気持ちで兄貴に声を掛けた。


474 :2/3:2009/07/01(水) 02:07:09 ID:2lvgpqLY0
私「随分飲んでるようだね」
兄「おっ!○○(私)かっ!オイ!□□(兄貴の友達の名前)。俺の妹だ!
 チョット美人だろ?でも良く見るとブスなんだ!ハッハッハ!
 あ?あれ?□□は?あれ?」
私「酔いすぎだよ。今日□□さんのお通夜だったんでしょ?今朝言ってたじゃん」
兄「そうか・・・そうだな。そうだ。…そうだ。ふぅ」
さっきまでの上機嫌な表情は消え、下を俯きながらフラフラとエレベーターの前まで来て、灰皿に腰を掛けた。
私「ちょっ!灰皿だよ。汚れるよ!」
と兄貴の脇の下に潜り込み、兄貴を支えながらエレベーターに乗り込んで気が付いた。
私「え?この格好(片腕を上げて千鳥足)…」
兄貴はその言葉に気が付いたように、
兄「□□がよぉ…送ってくれたんだ。『危ないですよ』ってよぉ。
 悪いことしちまったなぁ。アイツの通夜の日によぉ。本当。本当に…申し訳ない」


475 :3/3:2009/07/01(水) 02:09:08 ID:2lvgpqLY0
私には□□さんの姿は見えなかったけど、兄貴のあの時の歩き方は誰かに支えてもらっているようだった。

□□さん。ご安心ください。
あれから兄貴は深酒を止めました。

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