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『未 本編3』2/3

師匠シリーズ。
「『未 本編3』1/3」の続き
【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ19【友人・知人】

468 :未 本編3 ◆oJUBn2VTGE :2012/01/14(土) 23:53:17.59 ID:PnBJCiQI0
僕も真似をしたが、綺麗に直角に曲げるのは上手くいかなかった。コツが要りそうだ。
「この瑞垣(みずがき)の奥が神殿ですね」
拝殿の向こうには垣根で囲われた空間があり、その中に一回り小さな本殿の姿が見えた。
「この神社は、戦国武将であった高橋永熾が、勧請してきたものだと聞きましたが、
 それ以前からあった神社は、こちらへ合祀されたのでしょうか」
「あまり古いものは分かりません。明治以降なら合祀の記録が残っておりますので、社務所の方でお見せしましょう」
「では、のちほどお願いします」
師匠は境内を歩き始める。
「末社はあちらですか」
師匠の指さす先には、横に長い社殿のミニチュアのような建物があった。
「手前が摂社で、仁徳天皇、日本武尊、武内宿禰などをお祀しております。末社はその奥です」
末社は一つの小さな建物で、軒の下に塗装が剥げかけた朱塗りの扉がいくつか並んでいる。
「祖霊社はありますか」
師匠の問い掛けに、当代の宮司の顔が少し緊張を帯びた。
祖霊社というのは、歴代の神職や氏子の霊を祀った社(やしろ)のことらしい。
「この端がそうです」
鍵の掛かった扉の上部にかけられている額を確認しながら、師匠はその正面に立った。
歴代の神職の霊がこの中に……
その意味を考えて、少し背筋に冷たいものが走る。今朝の体験が脳裏に蘇った。
師匠は目を閉じて、そっと扉に右手を触れる。
章一さんと僕が見守る前でしばらくその格好をしていたかと思うと、ふいに肩の力を抜いてこちらを振り返った。
「違うな」
そう言い切った師匠に、章一さんは驚いた顔を見せる。
彼もこんな若い自称霊能者など胡散臭い目で見ていたはずだ。
ただ『とかの』に対する負い目から、女将が雇った師匠にそれなりの応対をしてくれていたに過ぎない。
しかしその自称霊能者が、祖霊の仕業ではないと言ったのだ。
『そういうこと』にしておけば話がシンプルになり、やりやすいはずなのに。
「あれが時の鐘ですか」
師匠の視線の先に鐘楼堂がある。境内の隅の方だ。
近づくと大きな鐘がお堂の屋根の下に釣り下がっている。


469 :未 本編3 ◆oJUBn2VTGE :2012/01/14(土) 23:55:03.11 ID:PnBJCiQI0
「鐘はあなたが?」
師匠は撞く真似をした。
宮司は頷く。
「時の鐘があるのは神社では珍しいようですが、神仏習合のころの名残でしょうな」
「かなり昔からあるのですね」
「当神社が開かれたころから、と伝わっております」
「鐘自体は新しいものですね」
「ええ、これは昭和になってから鋳造されたものです。古いものはあちらに」
境内の一番奥まった場所に、朽ち果てたような別の鐘楼堂があった。打つための撞木(しゅもく)もついていない。
そちらの鐘はいかにも古そうな姿をしていた。錆が全面に浮いていて、元の色もはっきりとしない。
師匠はその古い鐘の下に歩み寄ると、ぐるぐると回りながら観察し始めた。
「銘はありますか」
鐘の反対側から顔だけを出してそう訊ねる。
「いいえ。あった跡はありますが、欠けてしまっているようです。
 高橋永熾が持ち込んだ最初の鐘だと伝えられておりますので、こうして今でも保存していますが、
 もしかすると何代目かのものなのかも知れません」
ふうむ、と呟きながら、師匠は鐘の下部を指でなぞった。そして指についた錆をしげしげと眺める。
よく見ると、師匠がなぞっていたあたりはとくに錆が多い。
下から数十センチにかけて、ぐるりと別の模様がついているような感じだった。
「なるほど」と呟いた後、師匠は章一さんに問い掛けた。
「この錆がどのようにしてついたものか、伝わっていますか」
「錆、ですか」
章一さんは戸惑ったように「いいえ」と言った。
「なるほど、なるほど」と師匠は繰り返し、錆を指から払って手を叩いた。
「では、その合祀の記録を見せていただけますか」
それから連れ立って拝殿のそばにあった社務所に戻った。

畳敷きの部屋に通され、しばらく待っていると、章一さんが丸めた厚紙を持って現れた。
「これは写しですが」と言って広げた大きな紙には、神社の祭神や由緒などが細かい字でびっしりと書き込まれていた。
写しと言ってもコピーのことではない。書き写したものということだ。
「合祀の記録は……と、ここからですね」
師匠が紙を指でなぞる。


471 :未 本編3 ◆oJUBn2VTGE :2012/01/14(土) 23:59:00.58 ID:PnBJCiQI0
「なるほど、明治以降のものだけですね。 合祀したのは七つか。
 社格は無しか村社……ほとんどが祭神不詳ですね。単に『カミ』と呼ばれていた、村落社会の氏神というわけだ。
 記載項目に境内坪数や社殿の間数、それに管轄官庁までの距離まで書いてあるということは、
 恐らく明治十二年の『神社明細帳』づくりための、取調べの際に作成された記録でしょう」
師匠は僕に、明治の『神社整理』に関する簡単な説明をしてくれた。
どうやら明治の初期に、それまで乱立していた全国各地の様々な神社を国策として調べ上げ、
仏像を御神体にしているような神社を改めさせたり、
由緒も祭神もはっきりしないような小さな神社を、近隣の神社に合祀させたりして統廃合を進めることで、
地域の神社の機能を再生させようとしたのだという。
この若宮神社もご他聞に漏れず、そうした近隣の『カミ』たちを合祀してきた歴史があった。
合祀されたカミは、主に先ほど見てきた末社に祀られているそうだ。
「合祀された七社は、どれも拝殿もないような小さな神社ですね。住み込みの神主などいなかったでしょう。
 祭りなどの際には、恐らくこちらの若宮神社から、神主が出向いていたのではないですか」
師匠の推測に章一さんは頷いた。
「そう聞いております」
結局この松ノ木郷では、神様に関わる行事はすべてこの若宮神社が関わっていたということのようだ。
「この若宮神社は遷宮もありませんね」
「はい。ずっとこちらに」
「とかのの周辺に分社などもないと聞いていますが」
「その通りです。ございません」
章一さんはそう言った後、慎重に付け加えた。
「少なくとも私どもは把握しておりません」
師匠はしばらく社務所の天井を眺めていた。
そしてゆっくりと首を戻し、「よく、分かりました」と言って腰を浮かせた。
「ありがとうございました」
そう言って頭を下げたので、僕は驚いて袖をつつく。
「もういいんですか」
「もういいんだ。聞けることは聞いた」
おいとまします。師匠がそう言うと、章一さんは「そうですか」と同じように頭を下げ、
「あまりお力になれませんでした」と硬い表情で口にした。


472 :未 本編3 ◆oJUBn2VTGE :2012/01/15(日) 00:00:55.96 ID:PnBJCiQI0
社務所の玄関で靴を履いていると、章一さんが大きな布袋を抱えてやってくる。
「これを」
師匠は「あ、忘れるところでした」と言ってそれを受け取り、中を覗き込んで一つ頷いた。
「どうもありがとうございます。後日返します」
「それ、なんですか」
僕も覗き込もうとすると、「お楽しみは後だ」と見せてくれなかった。ちらりと縄のようなものが見えただけだった。
「そう言えば、和雄さんは?」
話を逸らすように師匠がそう問い掛けると、「少し前にどこかへ出かけましたな」との返事だった。
また『とかの』に手伝いに行ったのかも知れない。まめなことだ。
「この神社は、ご長男の修さんが継がれるんですか」
「いやいや、まだまだ」
そう言って章一さんは手を振ったが、相好を崩している。自慢の息子のようだ。
跡継ぎ不足に悩む神社は多いのだろうが、皇學館まで行った息子がいると、まずは一安心というところだろう。
もう一度お礼を言って、僕らはもときた参道の方へ向かう。
鳥居のところまで見送りをしてくれた章一さんの姿が小さくなり、最後に軽く会釈をして、
自転車を置いてある場所まで歩いていった。
その途中で師匠が呟く。
「もう少しで全貌が見える」
もう少しもなにも、僕には肝心の若宮神社でほとんど収穫がなかったようにしか思えなかった。
師匠はニヤリと笑うと、「さあ次だ」と言った。

自転車をこいで西川町の中心街まで出てきた僕らが、次に向かった先は図書館だった。
「裏を取るぞ」
師匠はそう言って、郷土史のコーナーから本を抱えて閲覧室の一角に陣取った。
そして西川町の変遷や若宮神社の歴史などを片っ端から調べていった。

「『未 本編3』3/3」に続く

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