誰に言っても信じてもらえない話 第3話
187 :本当にあった怖い名無し:05/03/18 06:34:33 ID:CR2ycCqa0
昔、不思議な体験をした。
僕は当時大学生で、3つ年下で高校生の弟がいた。
弟とは幼いころからとても仲がよく、よく2人で遊んだ。
成長しても心が離れるということは無かったと思う。
当時僕は一人暮らしをしていたが、秋も終わりに近づいた頃、母親から電話がかかってきた。
どうやら弟が、いわゆる交通事故にあったらしい。しかも容態は思わしくないようだった。
僕はすぐに病院へ向かった。
その後、手術だとか検査だとかいろいろあったが、結果的に弟は助かった。
しかし、弟の意識は戻ることは無かった。
それでも僕は、いつか弟が目を覚ますものだと考えていたので、ほぼ毎日見舞いに来ていた。
188 :本当にあった怖い名無し:05/03/18 06:35:52 ID:CR2ycCqa0
その日もいつものように弟のもとへいった。すっかり外は寒く、日も短くなっていた。
病室にいくと、弟はやはりいつものようにベッドの上で眠っていた。
悲しいことに僕は、この光景に慣れていてしまっていたのだ。
そして弟が眠っているのだと思い、部屋の電気を消し、一旦僕は部屋を出た。
僕はトイレに行き、再び病室へ戻ると、僕はひどく驚いた。
弟が立ち上がっていたのだ。立って窓から外の景色を眺めていたのだ。
しかし、僕が声をかけても弟は反応せず、外の世界をずーっと眺めていた。
僕は弟の横に立って顔を覗いた。
街からの仄かな灯が照らす弟の顔はひどく穏やかだった。
いくらかした後、僕は弟を抱えベッドに運んだ。
弟は再び目を閉じた。弟のまつげは涙で濡れていたようだった。
その後、再び弟は目を覚ますことは無かった。
189 :本当にあった怖い名無し:05/03/18 06:37:17 ID:CR2ycCqa0
数日後、弟は死んだ。
僕は死因を聞いた。親は容態が急変したと言ったが、医者は心不全だと言った。
弟の顔を見ると、あの夜と同じような穏やかな顔をしていたことを鮮明に覚えている。
何故か…どうしてか分からないが、悲しいという気持ちにはならなかった。
なのに涙だけは止まらなかった。
今でもあの夜のことを思い出すことがある。穏やかな顔や涙。
それはなんらかの奇跡の一種かも知れないし、あるいは脳に何らかの障害があったのかもしれない。
どちらにせよ、そのことを考えるとひどく切ない気持ちになる。
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