∧∧∧山にまつわる怖い話Part12∧∧∧
250 :星烏:04/09/02 00:55 ID:O2DZlD1u
山仲間が体験した話です。
北海道の大雪山を厳冬期、単独で登山していた時の話だそうです。
その日は早朝からとても天気がよく、登山には絶好の日だったそうです。
しかし、そこは冬の山の天気です。みるみるうちに雲行きが怪しくなり、ついには激しい吹雪になってきました。
引き返すにしてはもうかなり深いところまで来ており、逆に危険すぎる。
非難小屋まであと少しの所まで来ているはずだが、このホワイトアウトの状態では自分の位置すらつかめない。
ビバーグか?実際それも覚悟していたのだそうです。
しかし山に関しては経験豊富な男でしたので、
この寒いときのビバーグはしんどいなーなどと呑気に考えていると、少しだけ天気が回復してきました。
周りの展望もすこし開けてきて、あとは目標物が見えれば何とかなりそうです。
うっすらと山々が見え始め、自分の位置を迅速且つ正確につかむと、
よし!行ける!非難小屋に行くことを決断しました。
行程2時間、回復した天気も一瞬でまたもとの猛吹雪となり、
雪に埋まった非難小屋を発見できるか、不安が胸を過ります。
しかし、そんな不安をよそに意外と簡単に見つけることができました。
と言うのも、先行者がいたらしく、入り口部分の雪がよけてあったのです。
彼は深く安堵し非難小屋の中に入ると、先行者は二人のパーティーらしく、
奥のほうで早々とシュラフに潜り込み、寝息を立てて寝ています。
気を使いながら静かに夕食を済ませると、彼も寝ることにしました。
何時間か経ったころか、それとも数分か、ぼそぼそ話す声で目が覚めました。先行者の話し声のようです。
耳を澄ませば男女の声が聞こえます。この厳冬期に女の人は珍しいと思ったのだそうです。
今後の行程のこと、明日の天気のことを話しているらしく、
時折押し殺した笑い声も聞こえてきて、なんだか楽しそうです。
明日の朝、目が覚めたら話しかけてみよう。目標が一緒だったら同行してもいい。
そんな事を考えながら深い眠りに落ちていきました。
251 :星烏:04/09/02 00:57 ID:O2DZlD1u
次の日の朝、彼は物々しい雰囲気の中目覚めました。
10人ほどの男達が、非難小屋の中にどやどやと入ってきたのです。
彼が目を覚まし体を起こすと、その場が凍りついたそうです。
「あっ、あんた生きている人か!?」
何のことか分からずポカンとしていると、
「ほれ、あそこの二人」一人が先行者をあごで示すと、「あれオロクだ」。
つまり、遭難死した人だったのです。
事の顛末を聞くと、救助の要請がこの二人から無線により入ったのが3日前で、
折り悪く悪天候のためヘリも飛ばすことができず、ようやく陸路で遭難現場にたどり着いたのが2日前。
無線で励ましたのも空しく、発見したときはすでに凍り付いていたそうです。
遺体を収容し下に下ろそうとしたのだが、天候が急変し、
二重遭難を恐れ、一時非難小屋に遺体を安置し救助隊は引き上げ、今日改めて収容し下山。
そんな話だった。
彼は事の事態が掴めずにいた。
だとすれば、昨日非難小屋に着いたとき聞こえてきた安らかな寝息は?
昨夜の楽しげな話し声は?
厳冬期には幻覚や幻聴も珍しくない。あれは、やはりそれ?
しかし、確かめなければならないことがあった。
「あのオロクは、男女のカップルですか?」
救助隊の一人は無言で深く頷き、「新婚旅行だったんだと」。沈んだ表情でそう答えたのだそうです。
救助隊の中に彼の事を知っている人がいたらしく、(彼は、ちょっと名の知れたアルピニストです)
「あんただったら心配はないけど、今日は日が悪いからさっさと下山した方が良いですよ」と助言してくれたらしい。
しかし、彼は予定の全工程をこなし無事下山しました。
この話をしてくれたとき、彼は最後にこう言っていました。
「いやー、あん時は流石に気味が悪くてサー、山下りようかとも思ったんだけどサー、
でもあの夜聞こえてきた話し声がサ、とても幸せそうに聞こえたワケ。
だから山はいいなー、そんなことを思ったんだヨ」
そんな彼も、数年前アルプスの山に抱かれ姿を消しました。
たぶん彼も永遠に、山はいいなーと感じているに違いありません。
そう思うと気が晴れるような気がします。
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