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『話す』


∧∧∧山にまつわる怖い話Part4∧∧∧

468 :雷鳥一号:03/12/02 23:37
知り合いの話。

彼はムシャクシャした気分になると、独りで山にこもる癖があった。
その日も彼は一人野営をしていた。
仕事の上で同僚と衝突して、彼は短気を起こして口論になったのだ。

いつものように、独り言を呟き始める。
一種の儀式みたいなもので、こうすると冷静に自省できるのだという。
色々と同僚への文句を並べ立てていたが、自分の方にも悪いところがあったのは彼にも分かっていた。

不満をぶちまけた後で、『いや違う、そこは俺が悪かった』と思い直した時、
真向かいの林の中から、はっきりとした声が聞こえた。
「いや、違う。そこは俺が悪かったのだ」
彼自身の声と、まったく同じ声色だった。
その瞬間、悟ったのだという。
彼はそれまで、独り言をくり返していたつもりだったのだが、
実は彼と同じことを考えている何かと、延々と会話を続けていたのだ。
なぜその時まで気がつかなかったのかは分からないが、
気がついた途端、冷水を浴びせられたような気がしたそうだ。
それきり彼は黙り込み、林の中の声もそれ以上何も言ってこなかったらしい。

以来、彼は短気を起こさなくなった。
頭に血が上っても、あの時の声を思い出すと、自然と冷静になるのだそうだ。


469 :雷鳥一号:03/12/02 23:37
知り合いの話。

彼女は気が強く、山にも一人で出かけることが多かった。
紅葉狩りに行こうと、秋の谷へ出かけた時のことだ。
通る人とて無い細い道を歩いていると、木立の奥より物音がした。
覗いてみると、少し先の木陰で、大きな猿のような背中が樹の根元を掘っていた。
ここで襲われたら逃げられない!
強気な彼女も、その時ばかりは一人でいることに焦ったらしい。
すると、まるで彼女の心を読んだように声がかけられた。
「襲わんよ。わしはこれでも菜食主義者なんでな」
まさか口がきけるとは思わず呆然としていると、それは立ち上がって振り向いた。
大猿の身体に、初老の男性の顔がついていた。

立ちすくむ彼女を残し、それは悠然と歩き去ったという。
その手には、掘り出したばかりの長い山芋を持っていたそうだ。


470 :雷鳥一号:03/12/02 23:38
知り合いの話。

彼のお爺さんは炭焼きをしていたという。
ある寒い夜、窯の前で火の番をしていると、闇の中から声がかけられた。
「寒いから、そちらへ行っても良いか」
里の者だろうと思い「いいよ」と答えると、見慣れぬものが姿を現した。
それは大人ほどの大きさで、全身が黒い剛毛で覆われていた。
目鼻さえ見てとれぬ顔を見て、腰を抜かしかけたそうだ。
「ああ、やはりそうだ。お前も俺が醜いと思うのだな!」
それは哀しそうにそう叫ぶと、背を向けて山の中へ逃げていった。
お爺さんは終始口を開くことができなかったそうだ。

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