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『姪と人形』3/4

「『姪と人形』2/4」の続き
死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?180

266 :本当にあった怖い名無し:2007/08/19(日) 10:23:51 ID:4trCimcHO
(ゐ)
ここで、当時のオレの状況を説明しておく
姉の家に居候していた時、オレは離婚を機にそれまで15年勤めた会社を辞めていた
結婚と同じ様に、離婚もまた体力と精神力を消耗する
しかも結婚は二人の共同作業だが、離婚は独りの戦いになる
疲れていた、心身共に
退職金は丸々元妻に渡したが、失業手当は 三ヶ月は出るのだし
前に来て、この街の風景が気に入っていたから、少し静養するつもりだった、
もちろん三ヶ月丸々ここに居座るつもりはなかったが
丁度、旦那が単身赴任、姉夫婦にとっても悪い話ではなかった、いわゆる番犬がわりだ
ことわっておくが、オレは腕に自信はない、非戦闘民族だ
オカルトは好きだが、呪文などしらない
そして疲れてもいた
この状況下でオレに何ができたろう
全てが見間違い、勘違いの世界ではなかったか
今、他人と変わりない日常を送っているオレはそう思う、あれは本当に現実のことだったのか
だからこうして書く、一つひとつ、当時の事を思い出しながら


311 :本当にあった怖い名無し:2007/08/20(月) 19:01:46 ID:EyYAYZ9pO
(お)
話をその晩に戻す
人形はオレの顔の前にあった
オレは金縛りにあったように動けない
今まで、金縛り、って現象に出会った事は何度かあった
だけど、瞼を閉じることも出来ない、そんな金縛りははじめてだった
それに、姪が呟いている、この言葉は何語だ?
もとより西洋圏の言葉でないのはわかる
でも、中国、韓国、そんな言葉でもない
強いて言えばやはり日本語か
も少し、日本語勉強しとくべきだった
ソミンって言葉、皆知ってるか?
当時のオレは全く知らなかった


358 :本当にあった怖い名無し:2007/08/21(火) 13:05:47 ID:lIDi5ZYHO
(く)
結局、そのまま人形とにらめっこをしているわけにもいかず、オレはいつしか寝てしまったようだ
瞼が閉じれた所までは覚えている
朝起きるとオレと姪の布団の間にその人形が置かれてあった
その時、改めてくだらない事に気が付いた、人形って、いつ寝るのだろうか
隣に寝ている姪もまた、目を開けてジッと天井を見ていた、この子は昨夜寝たんだろうか
昨夜の事が、夢か現実なのかよく解らないまま、甥を起こし、三人で階下に降りた
いつものように朝食が出来ていた
姉は首の下、二の腕に以前あの斑紋はあったが、今朝は心なしか気分がいいように見えた
それに姪があの人形を抱いていることにも、何も言わなかった
むしろ、甥の方があの人形を部屋に置いてくるように、しつこく妹に言っていた


361 :本当にあった怖い名無し:2007/08/21(火) 13:59:22 ID:lIDi5ZYHO
(や)
食事の後、甥がやってきてオレの耳元で囁いた
昨日の夜は怖かったでしょ、と
見ていたらしい、昨夜の事を
そこでオレは改めて、あれが夢ではなかったと思うと共に、あの人形がどうして再びこの家に来たのかを思った
あの神社に人形を戻しに行った日から、姪は神社に行く時間など無い
強いて言えば昨日オレが本屋に行ったときか
だが姪も姉も出掛けた様子はなかったが
甥はその時間、学校のプールに行っていて、知らないという

姪が人形を抱いて玄関を出るのが見えた
どこへ行くのかと思えば母屋へ行ったらしい
この家、母屋と反対側に玄関がある
つまり通りに面してそれぞれに玄関があるわけだ
通りに出ても互いに行き来はできるが、普段は庭を突っ切って、互いの茶の間から出入りしている
だから姪がわざわざ通りに出るのを見て、回りくどいことだと思った

その姪が、今度は母屋の茶の間から出てきて、祖父の(彼女から見て)手を引いて庭に降りてくるのが見えた
どうやら蔵に入るらしい
人形の事は一時忘れて、オレは好奇心に駆られた
あの薄茶の土壁の蔵、オレも前々から興味を持っていたが、まだ入った耕とはなかった
オレはさっそく甥を誘って庭に降りた


363 :本当にあった怖い名無し:2007/08/21(火) 14:39:57 ID:lIDi5ZYHO
(ま)
蔵には普段は黒くてゴツい鍵が掛けられているのだが、思った通りその時は外されて扉は開け放たれていた
オレは中にいる老人に軽く会釈をすると、甥とともに中に入った
何を出すのか、とオレは聞いた、手伝いますとも
老人の話では、そんなにたいそうな物ではないらしい
これくらいの、と言って彼は胸の前に手を広げて見せた
小さな木の箱らしい
姪の方を見ながら、どこに仕舞ったか覚えとらんぞ、というような事を言って、またそこいらを探し始めた
甥が妹に、何を探させているのかと聞いた
姪が答える
ソミンショウライフ
ゴズテンノウサイモン
何語だそれ?
ゴズテンノウはわかったが後の言葉は解らなかった
だが姪はかなり明瞭にその言葉を言った
そして甥もまた、ジィチャン、あれ蔵に入れてるのか、バチあたるぞ、そんな意味の事を言った
爺様答えて、古いやつはな。

蔵には他にも鎧甲やら長持ちやら、興味を引きそうな物が色々とあったが
その聞き慣れない言葉に、幾分かの肌寒さとともにオレの耳は釘付けになった


381 :本当にあった怖い名無し:2007/08/22(水) 09:38:00 ID:elI4xrjkO
(け)
蘇民将来符、そういう字を書くそうだ
オレにとっては、その言葉、聞くのも初めてだったし、その実物を見るのも初めてだった
それを納めた箱は幾つもあった
何れも中に納めた将来符は大きさもまちまちだった
ただ形は断面が六角形であり、先が尖って、何かチビた鉛筆のようだった
その鉛筆の腹には絵と文字が書いてある
中には飴色をしたものもあり、その色からして相当古そうな物もある
牛頭天皇祭文、こちらの方は将来符の縁起を記したもの
牛頭天皇、今は素戔嗚尊と同一視される事が多い
蘇民に茅の穂を渡し、我は素戔嗚尊なり、そう言って去っていった風来坊
何れも、信濃、今の長野県の国分寺が有名なので、ググればすぐ見つかるから興味がある方は引いてみるといいだろう
国分寺では、毎年一月の7日と8日にその護符が配布?されるそうだ
効能は災難を取り除く?
但し表面に書かれた言葉によって多少、その意味が違うそうだが


382 :本当にあった怖い名無し:2007/08/22(水) 10:24:15 ID:elI4xrjkO
(ふ)
小難しい話は少し置く
実際、当時、友人(めんどくさいから、以後、メタギアのオタコンにするな、実際よく似てる)
からの情報では、あまりに聞き慣れない漢字が多く、その場ではよく理解できなかった

ただ何故、姪がそんな物を欲しがったのか
それは爺様の次の言葉で合点がいった
母さん早く良くなるといいな、と
なる程、疫病にとらわれていたが、病全般に効くものものだろ、この将来符とやらは
翌日は、病院へ姉の検査の結果を聞きに行く


408 :本当にあった怖い名無し:2007/08/22(水) 23:43:58 ID:elI4xrjkO
(こ)
姪はその将来符の内、手のひらに収まる位の、一番小さいものを手に取ると、それを人形の帯に挟み込んだ
人形の不思議さがまた一段増した気がした。
聞いたところでは、本来は将来符というのは、家の中、神棚や鴨居の上に並べ立てて置くものだそうだ
けれどその家では何年か前の、静岡に地震が頻発した際に落ちてきて、
太い鉛筆のような尖った先端が爺様の頭を直撃したそうで、以来、箱に収めて蔵に入れたそうである
材質は主に柳だそうだが、他に桐やタラも使うそうだ、何れ大きなやつならば、結構重かろう

蔵を辞すとオレは甥を連れて姉の家に戻った
姪の方は母屋の子供と遊ぶと言い、爺様と母屋に向かった
途中、井戸の横を通り過ぎる、祠にその日は桃が備えられていた、昨日は何だったろうか。
家に戻ると姉が今し方、地震があったと言う、けっこう揺れたと。
確かに蔵というものは堅牢な造りのものだというが、
それにしても中には細々としたものがいくらも積まれてあって、それらがカタリともしなかった。
先の夜の事があったから、甥の口は開けたままになった。


409 :本当にあった怖い名無し:2007/08/22(水) 23:47:24 ID:elI4xrjkO
(え)
家鳴り、その殆どは排水溝や、近くを走る高速道路などの振動が、ある特定の場所に伝わるもの、
つまり一種の共鳴現象だ。
だが、そうとも言えない、とても共鳴とは言えないほどの揺れを体験した人もいるという、日本にも外国にも。
家鳴りとは違うが、昔、山に行ったとき、麓の河原の側で一泊した
オレ達以外に野営している者は付近にはいなかった
近くに古びた神社があった
閂が差し込んであるだけだったので、面白半分に友人と忍び込んだ
暫くして板壁の左右、後ろを、モノ凄い勢いで叩かれた、地震なのか、獣でも壁に突っ込んだのか、今もって解らない

とにかくオレは部屋に戻ると、机の上に念のために水を入れたコップを置いた
その時に、出来ることがあれば、取り合えずやってみる主義だ
一時間程して姪が戻ってきた
スーパーの袋に、母屋から桃を貰ったと、幾つか入れて帰ってきた、たぶん祠に供えてあったのと同じ桃だろう
何故か姪は、夕食を前にしてそれを剥けとせがんだ
よく冷えた桃だったが、一つだけヌルイのがあった、祠に供えてあったものだろうか。


410 :本当にあった怖い名無し:2007/08/22(水) 23:58:49 ID:elI4xrjkO
(て)
その晩、コップの水に波紋はでなかった
今日もオレの部屋で寝る甥と姪は、始終、興味深げにコップの表面を眺めていた
姪は、今日は人形を持ってこなかった、部屋に置いてきたと言う。

翌日、姉と、姪を連れて病院に向かった
病院という所は意外と病気を貰うところで、姉は姪を連れて行くのは嫌がったが、
何故かオレは目を離すのが不安で、強いて連れて行くことにした
甥は母屋に預けた
何となく、誰かをこの家に一人で残しておくのが不安だった

検査の結果を説明された、この時はオレも一緒に病室に入った
姪は待合室に残したが
医者の説明では、確かに肝臓が少し腫れているようだと言う
しかし血液検査では何も見受けられなかったとも
当時のその時点では、肝炎もなく、しかし急激な発症例からすると、肝吸虫症、肝ジストマ症が考えられると言う
胆管に寄生する寄生虫らしい
即、検査入院を勧められたが、事情を話して明日にしてもらった
今となっては、その判断は後悔している。
家に戻り、明日の入院の用意をしている時、姉はいきなり倒れた
オレは救急車を呼び、甥を母屋に走らせた

義兄が到着したのは、その晩も更けようとしている頃だった。

「『姪と人形』4/4」に続く

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